よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

父を見送って

父が亡くなって二週間。まだ心の整理がついたとはとても言えないけれど、東京の自宅に戻って久しぶりに近所の川べりを歩きながら、ようやく、少なくとも、自分を取り戻しつつある。 心配性で先々のことまで考えを巡らし、万全の準備をしないではいられなかっ…

楽都松本の人々 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年 その③

2008年の夏に初めてサイトウ・キネン・フェスティバル松本に行くことができたのは、実家の母のおかげだった。 かねてより、世界のセイジ・オザワのカリスマ性を求心力に錚々たる演奏家が集結するサイトウ・キネン・オーケストラには、興味も憧れも大いにあっ…

サイトウ・キネンの記憶 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年記念 その②

コロナ禍中、一旦ほぼゼロになった音楽会。感染状況に応じて開催方法を模索する大変な時期を経て、有観客の演奏会が復活してきたのは有り難いことだ。松本のフェスティバルもこの夏、3年ぶりの有観客公演となった。 そうした幾多のコンサートのうち、自分が…

晩秋のマラ9 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年記念 その①

どうも信州に縁があるようで、中学校の修学旅行、家族旅行、学生時代の農協でのアルバイト、最初の職場のスキー旅行、新聞社での取材など、何かと訪ねる機会が多いエリアだったが、晩秋の信州は初めてだ。中央線の車窓から見える枯葉色の山並みの向こうに、…

世界に一つだけのバラ、あるいは、あじさい?

ひと昔もふた昔も前のことになるが、SMAPの『世界で一つだけの花』という歌がヒットした。 「ナンバーワンにならなくてもいい。もともと特別なオンリーワン♪」 励まされるような気もするし、慰めにもならない気もするこの歌詞。当時の私は不快感を覚えた。 …

初心忘るべからず。そこからまた喜劇が始まる

田崎悦子さんのピアノリサイタルでシューベルトの遺作を聴いて思い出した拙短編「喜劇はまた始まる」の続き。 前編はこちら。 chihoyorozu.hatenablog.com ***** 「喜劇はまた始まる」(後編) その頃、ウィーン郊外のとある教師のつましい住まいでは、…

喜劇はまた始まる

田崎悦子さんのピアノリサイタルでシューベルトの遺作を聴いて、昔、ライタースクールの課題として書いた短編小説(笑)を思い出した。探してみたら、PCのフォルダーの奥の方から出てきた。懐かしくて思わず読み返す。恥ずかしい代物だが、せっかく発掘した…

シューベルト最後の3大ピアノ・ソナタ

また半年が経って初夏。このところ、田崎悦子さんのピアノを聴きに行くことで、とっ散らかった日々をリセットしている気がする。昨秋、田崎さんのブラームスを聴いた頃とは自分の状況もだいぶ変わった。今回はシューベルトの人生最後の大作ピアノ・ソナタを3…

日本発・美しき・谷崎オペラ「卍」

久々にオペラを堪能しました。 今の世の中には長らく意識の外に行ってしまったものを呼び戻してくれる便利な仕組みがいろいろあります。ある日、作曲家 西澤健一氏のオペラ公演の案内が画面に流れて来た時、今これに行くべしというサインだと直感しました。 …

田崎悦子ピアノリサイタル「Joy of Brahms」

かのブラームスの最晩年に遺言として書かれたピアノ曲ばかりを集めたリサイタル。コロナ禍に疲れた心身にこれほど沁みる音楽はないだろう。そんな音楽を求める人々が集まったのか、日曜の昼下がり、東京文化会館小ホールの客席は予想以上に埋まっていた。 晩…

苦手な話にも耳を傾けてみること ~福井南高校での学びその2

矢座君のドキュメンタリー映画の上映会に端を発する福井南高校での教科横断型授業。 chihoyorozu.hatenablog.com 生徒による生徒のための授業、NUMOの講師による高レベル放射性廃棄物の地層処分のレクチャーを含めた4時間目の座学に参加し、生徒たちと共に大…

自ら問いを立てるきっかけとは ~福井南高校での学びその1

原子力が抱える難問を若い世代と共有する場にリアルで参加したのは久しぶりだ。しかも初めて福井県の高校を訪ねることができたのは有り難いご縁と言うほかない。 これまでに聞いた話を総合すると、昨年11月に鯖江の市民団体の方々が、東京の高校生 矢座孟之…

咲いて、散って、La La La

「咲いて、散って、ラララ」 このタイトルに心惹かれ、ひさびさに立川のアーティスティックスタジオLaLaLaに行ってきた。 ギャラリーにもコンサートサロンにもダイニングキッチンにもなる居心地の良い空間。6年ほど前、当時勤めていた新聞社を辞めるかどうか…

絶世の未来へ 林英哲 和太鼓独奏の宴@サントリーホール

「太鼓をたった一人で打つ大舞台、一世一代の独奏を、50年の節目にやらせていただきます」 サントリーホールで開演直前、姿は見えねど、おそらく舞台袖からマイクで、あるいは録音だったのか、英哲さんのご挨拶の声が会場内に流れた。コロナ禍中の来場への謝…

With コロナの音楽祭@ミューザ川崎

コロナ禍で3月以降自粛を余儀なくされたオーケストラ。東京では東フィルが先頭を切って6月21日にBunkamuraオーチャードホールで定期演奏会を再開し、その模様は「情熱大陸」でも放映された。 www.mbs.jp 翌6月22日、同じ東フィルが東京オペラシティで…

中学生が福島民報にインタビュー ~2020京都発ふくしま「学宿」その9

福島民報の渡部さんの話が終わり、今度は生徒たちから渡部さんに質問する番になった。熱心に聴き入っていただけに質問も熱心だ。 ***** Q:福島で原発事故が起きてからいろんな情報が入ってくると思いますが、上の人から「その情報だけは出すな」みたい…

福島民報の話を聞く ~2020京都発ふくしま「学宿」その8

現地の大人との対話に重点が置かれ、生徒たちによる情報発信に期待する今回の福島ツアーの中でも、地元紙 福島民報のベテラン記者との「情報発信についての対話」は、生徒たちの関心の高さが感じられるセッションだった。 2月23日、朝から盛り沢山だったスタ…

冊子『福島第一原発と地域の未来の先に・・・』は語りかける

コロナ禍中の4月下旬、これまで福島第一原発の廃炉現場と社会をつなぐ様々な取り組みを展開してきた一般社団法人AFWから、冊子『福島第一原発と地域の未来の先に・・・ ~わたしたちが育てていく未来~』が出版された。 AFW代表で元東電社員の吉川彰浩さんと…

浪江町を歩く 〜2020京都発ふくしま「学宿」その7

ここ数年、ご縁あって中高生のスタディツアーにたびたび同行させてもらっている。毎度、盛りだくさんなプログラムで、いずれも学びの刺激に満ちていたが、何と言ってもその醍醐味は、生徒たちが日常を過ごす家や学校を遠く離れ、仲間と一緒に未知の土地を自…

コロナ禍中の母の日

コロナ禍中、既に家から巣立った息子たちになかなか会えない。長男と次男は都内でそれぞれ一人暮らし。たまに週末ごはんを食べに来ていたのも3月以降やめている。昨年就職した三男は九州に配属で、それこそ正月以来会っていない。 GW最終日にLINEのグループ…

東京電力を訪ねる 〜2020京都発ふくしま「学宿」その6

新型コロナ禍中の4月下旬。遅々として進まないこのレポートだが、こうしている間にも、今のところ電力が安定供給されている。しかし、東日本大震災後の原発停止で今や日本の発電燃料の4割を占める液化天然ガス(LNG)を全て輸入に頼っている脆弱さについて、…

オーケストラ@コロナ禍

最後に生のコンサートを聴きに行ったのは2月半ばだったろうか。そうこうするうちに新型コロナウイルスの感染拡大により、都内のコンサートは軒並み中止か延期になってしまった。今、オーケストラはどうしているのだろう? そんな中、3月19日にメールで届いた…

廃炉の先にあるもの 〜2020京都発ふくしま「学宿」その5

楢葉町の宿舎には太平洋が一望できる露天風呂があり、素晴らしい日の出を眺めると、震災後の福島の難しい課題や新型コロナウイルスの不安も一瞬忘れてしまう。 終日福島で過ごす研修2日目は朝から盛りだくさんなプログラム。8時過ぎには宿舎内の研修室に集…

人が主役のならはCANvas 〜2020京都発ふくしま「学宿」その4

三春町のコミュタン福島を出たバスが浜通りの楢葉町に近づく頃にはだんだん日が暮れてきた。夕闇迫る中、楢葉町の施設みんなの交流館CANvasに到着。迎えてくれた一般社団法人ならはみらい事務局の西崎芽衣さんも言った通り、「田舎にあるにしてはお洒落」な…

ひとりの福島県人のおはなし 〜2020京都発ふくしま「学宿」その3

今回のふくしま「学宿」には、昨年のような京都と福島の同世代の生徒同士の交流という部分は含まれていないが、京都の生徒たちと福島の大人とのさまざまな対話の場が用意されていた。現地で暮らす方々と「対話」すること、そして、自分たちがどのようにそれ…

コミュタン福島再訪 〜2020京都発ふくしま「学宿」その2

郡山駅を出たバスが向かったのは三春町にあるコミュタン福島。田村西部工業団地内にある広大な福島県環境創造センターの敷地内に建つ交流棟で、延べ床面積約4,600㎡の立派な建物である。「福島のいまを知り、放射線について学び、未来を描く」場を目指して20…

ツアー実施の判断 〜2020京都発ふくしま「学宿」その1

ご縁がつながり、今年も京都の中学生たちと一緒に福島を訪ねることができた。 今回は、福島県のホープツーリズムの一環として企画されたもので、いただいたしおりには、福島県教育旅行モニターツアー〜福島に来て、学び、考える!ふくしま「学宿」〜という長…

ルドヴィート・カンタ「ベートーヴェン チェロソナタ全曲コンサート」

ひょっこりご連絡をいただき、久々にカンタさんのチェロを聴きに行った。何年ぶりだろう。日に日にエスカレートする新型コロナヴィルスのニュースに翻弄される今日この頃、一週間ずれて今週の話だったら、コンサートは中止になっていたかもしれない。 カンタ…

京都と福島、ご縁はつながる ~京都発!「福島震災復興プロジェクト」⑥~

そうこうしているうちに年が改まってしまった。京都発!「福島震災復興プロジェクト」の福島ツアーに同行してからもうすぐ一年になるではないか。なんということ! 研修の内容自体はこれまでのブログにだいたい記しておいたが、何かまだ書き足りないことがあ…

話し合うこと、伝えること ~京都発!「福島震災復興プロジェクト」⑤~

コミュタンでの研修の最後は「交流会」となっており、「人や住む場所によって異なる放射線や福島の食べ物に対するイメージの違いを話し合い、風評被害について考える」とプログラム上は書いてあったが、要するに生徒たちのディスカッションのために2時間ほ…