よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

音楽

楽都松本の人々 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年 その③

2008年の夏に初めてサイトウ・キネン・フェスティバル松本に行くことができたのは、実家の母のおかげだった。 かねてより、世界のセイジ・オザワのカリスマ性を求心力に錚々たる演奏家が集結するサイトウ・キネン・オーケストラには、興味も憧れも大いにあっ…

サイトウ・キネンの記憶 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年記念 その②

コロナ禍中、一旦ほぼゼロになった音楽会。感染状況に応じて開催方法を模索する大変な時期を経て、有観客の演奏会が復活してきたのは有り難いことだ。松本のフェスティバルもこの夏、3年ぶりの有観客公演となった。 そうした幾多のコンサートのうち、自分が…

晩秋のマラ9 ~セイジ・オザワ松本フェスティバル30周年記念 その①

どうも信州に縁があるようで、中学校の修学旅行、家族旅行、学生時代の農協でのアルバイト、最初の職場のスキー旅行、新聞社での取材など、何かと訪ねる機会が多いエリアだったが、晩秋の信州は初めてだ。中央線の車窓から見える枯葉色の山並みの向こうに、…

シューベルト最後の3大ピアノ・ソナタ

また半年が経って初夏。このところ、田崎悦子さんのピアノを聴きに行くことで、とっ散らかった日々をリセットしている気がする。昨秋、田崎さんのブラームスを聴いた頃とは自分の状況もだいぶ変わった。今回はシューベルトの人生最後の大作ピアノ・ソナタを3…

日本発・美しき・谷崎オペラ「卍」

久々にオペラを堪能しました。 今の世の中には長らく意識の外に行ってしまったものを呼び戻してくれる便利な仕組みがいろいろあります。ある日、作曲家 西澤健一氏のオペラ公演の案内が画面に流れて来た時、今これに行くべしというサインだと直感しました。 …

田崎悦子ピアノリサイタル「Joy of Brahms」

かのブラームスの最晩年に遺言として書かれたピアノ曲ばかりを集めたリサイタル。コロナ禍に疲れた心身にこれほど沁みる音楽はないだろう。そんな音楽を求める人々が集まったのか、日曜の昼下がり、東京文化会館小ホールの客席は予想以上に埋まっていた。 晩…

オーケストラ@コロナ禍

最後に生のコンサートを聴きに行ったのは2月半ばだったろうか。そうこうするうちに新型コロナウイルスの感染拡大により、都内のコンサートは軒並み中止か延期になってしまった。今、オーケストラはどうしているのだろう? そんな中、3月19日にメールで届いた…

ルドヴィート・カンタ「ベートーヴェン チェロソナタ全曲コンサート」

ひょっこりご連絡をいただき、久々にカンタさんのチェロを聴きに行った。何年ぶりだろう。日に日にエスカレートする新型コロナヴィルスのニュースに翻弄される今日この頃、一週間ずれて今週の話だったら、コンサートは中止になっていたかもしれない。 カンタ…

サントリーホール前でライブビューイング

そろそろ芸術の秋。サントリーホール・アークヒルズ25周年の2011年にスタートし、今年で8回目を迎えるという「ARK Hills Music Week」に初めて行ってみた。 5月の記者会見で今年からの新企画「ARKクラシックス」を知り、ピアニスト辻井伸行とヴァイオリ二ス…

田崎悦子ピアノリサイタル「三大作曲家の愛と葛藤」

いつもながら、自分にとって行くべき音楽会は絶妙なタイミングで開催される。必ず行くべしと言われているようだ。5月26日、土曜日の昼下がり。この前の週でも後の週でも行くことは叶わなかった。 ところが、会場でプログラムと一緒に受け取った小冊子には「…

サントリーホール オープンハウス② ホールで遊ぼう!

プレビュー記事というのは罪なもので、自分がまだ見聞きしていないイベントについて、主催者側へのヒアリングやプレスリリース、場合によっては関係者へのインタビューを元にまとめるわけだが、「実際はどうなんだろう?」と心配になる。サントリーホールは…

サントリーホール オープンハウス① 急な記事

サントリーホールに初めて入ったのは、プロの演奏会を聴きに行った時ではない。開館間もない1987年の1月、所属していた学生オケの70周年記念定期演奏会の時だった。5年に一度の東京公演である。「世界一美しい響き」を目指して設計された東京初のクラシック…

トランペット@古民家

トランペット奏者・オリパパこと織田準一さん、作曲家・オリママこと織田英子さんご夫妻に初めてお会いしたのは数年前。しおみえりこさん&橋爪恵一さんが主宰する立川のLaLaLaアーティスティックスタジオでのコンサートだった。 それ以来、ときがわ町のお宅…

もし高校生がプッチーニのオペラ『蝶々夫人』を観たら

「もしドラ」のような仮定の話ではなく、実際に新国立劇場はオープン翌年の1998年以来「高校生のためのオペラ鑑賞教室」を開催しており、毎年約1万人の高校生がオペラを観る機会を得ている。ほとんどの生徒にとっては「初めてのオペラ」だ。その中で最も頻繁…

ウェイウェイさんは今どこに

5月の半ば以降、怒濤の取材と原稿書きに明け暮れて気がついたら猛暑の残暑。北海道への一泊取材ツアーから帰ってきた翌日、二胡奏者のウェイウェイ・ウーさんのメルマガが届いた。「次は北海道!」と。そうか!ウェイウェイさんのソロデビュー15周年記念コン…

太陽の讃歌と惑星~東響コーラス30周年②

4月22日土曜日夜、東京交響楽団の今シーズンの定期公演は、なんとオーケストラなしで開幕。ミューザ川崎のステージには東響コーラスのメンバーが並び、「太陽の讃歌」の日本初演に臨んだ。 www.japantimes.co.jp 旧ソ連タタール共和国出身で現代音楽の作曲家…

アマチュア合唱団がプロオケと共演~東響コーラス30周年①

プロってなんだろう?アマチュアってなんだろう?とまだ考え続けている。 プロの東京交響楽団の専属合唱団である東響コーラスがアマチュアであると知った時は驚いたものだ。今回はこのやや特殊なアマチュア合唱団の30周年にあたり紹介することを提案し、4月2…

ヨーヨー・マとシルクロード・アンサンブル⑤ ヨーヨー・マの言葉

3月3日付The Japan Times掲載のシルクロード・アンサンブルの記事。 www.japantimes.co.jp 記事本体よりずっと長くなってしまった編集後記の最終回です。 今回の記事化について、エディターからの条件は「ヨーヨー・マのコメントをもらうこと」でした。アン…

ヨーヨー・マとシルクロード・アンサンブル④ 21世紀の尺八

3月3日付The Japan Times掲載のシルクロード・アンサンブルの記事のかなり長々しくなってしまった編集後記その4です。(いつのまにかもう4月ですが) アンサンブルのメンバーへのビデオ・インタビュー。3人目はもう一人の日本人アーティスト、尺八奏者の梅…

ヨーヨー・マ&シルクロード・アンサンブル③  シリアのクラリネット奏者

創設者ヨーヨー・マのほか20人のコア・メンバーにゲスト・パフォーマーなども加わるシルクロード・アンサンブル。世界各国から集まったアーティストたちはみな素晴らしく、一人一人深く掘り下げれば本が何冊も書けそうですが、今回の記事を書くにあたり、新…

ヨーヨー・マ&シルクロード・アンサンブル② 藤井はるかさんに聞く

打楽器奏者 藤井はるかさんとの出会いは昨年の10月。妹の藤井里佳さんとの打楽器デュオ うたりをご紹介した時でした。打楽器姉妹のお母様はマリンバ奏者の藤井むつ子さんです。すごいなあ・・お二人にお話を伺いながら、元・学生オケ打楽器パートだった私は…

ヨーヨー・マ&シルクロード・アンサンブル① グラミー賞の快挙

世界的チェリストの一人ヨーヨー・マは5歳でデビューし、グラミー賞だけでも既に18回も受賞しているそうですが、彼が立ち上げ、2000年から世界各国へのツアーを続けてきたシルクロード・アンサンブルのグラミー賞受賞は初めてのこと。 ・・・ということを迂…

ピアノ連弾の喜び

「ピアニストが二人いたら連弾ができるというものではない。」 公開ゲネプロの途中でピアニストの田崎悦子さんは語った。今回のゲストであるピアノデュオ ドゥオールの藤井隆史さんと白水芳枝さんから聞いた「忘れられない言葉」だという。「私もその仲間に…

蝶々夫人は死なず

「蝶々夫人」は決して好きなオペラではなく、観るたびに何とも言えずモヤモヤした気持ちになるのに、つい、また観たくなるのはなぜだろう? 最初に観たのは15年ぐらい前だったか、ベルリンに住んでいた頃のシュターツオパー(ベルリン州立歌劇場)。この時の…

プロの覚悟 ~アマチュア・オーケストラをめぐって③~

このところ、アマチュア・オーケストラのことを書いたり聴いたりしたおかげで、自分の気持ちを再確認し多くの人たちと共有できたのは嬉しいことだった。 一方で改めて感銘を受けたのは、プロの音楽家の道を選ぶ覚悟というものである。 マーラー祝祭オーケス…

人の心を打つ演奏 ~アマチュア・オーケストラをめぐって②~

2月6日付The Japan Timesに日本のアマチュア・オーケストラについての短い記事を書いた。 www.japantimes.co.jp 昨年、ちょうど新聞社を辞める頃にお誘いいただいて30年ぶりにオーケストラに参加させてもらった。そのマーラー祝祭オーケストラの今年の定期演…

青春のマイスタージンガー ~アマチュア・オーケストラをめぐって①~

驚いたことに「世界最古のオーケストラ」は日本の雅楽だそうだが、南蛮人や天正少年使節の時代は別として、明治以降に「西洋音楽」を受容した日本で本格的なオーケストラができたのは大正時代のこと。プロのオーケストラに先立って、学生やアマチュアのオー…

舞台で輝くママ友

開演ぎりぎりに駆け込んだら、二人は颯爽と舞台に現れた。 ひょえーカッコイイ!! 土曜の昼下がり。立川のたましんRISURUホールでTAMAMA-DUOのピアノ連弾コンサートが始まった。200席余りの小ホールにほぼいっぱいのお客さんを前に堂々たる姿は、一緒にボラ…

愛の喜びと悲しみのクライスラー

本年初記事は1月6日付でジャパンタイムズに載った。今年も前職への感謝の気持ちを忘れず、少しずつでも書き続けていこう。 www.japantimes.co.jp 元々は、あるヴァイオリンリサイタルについて小さなお知らせ記事を頼まれサラッと書いて昨年末掲載予定だった…

バイエルン放送交響楽団来日公演@ミューザ川崎

大学時代の先輩に誘っていただき、来日中のバイエルン放送交響楽団の演奏会に出かけた。 久々のミューザ川崎は早くもクリスマスムードに包まれている。 今回は舞台下手を見下ろす3階席だったので、舞台上のハープやオルガンあたりは死角になったものの、盛り…