よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

National Day supplementという広告特集

少し振り返ると、今年の1月いっぱいで実質的に退職するまで私は、広告特集のコンテンツを編集する部署で主に大使館のPR記事を担当していました。

大使館がPRする機会として、ジャパンタイムズでは私が担当していた頃よりはるか昔から、たぶんかれこれ50年、ナショナルデー特集という独特の広告特集を掲載してきました。

建国記念日独立記念日などを祝うナショナルデー。年に一度のナショナルデーにはどの国にもPRのスペースを提供しようという趣旨の企画です。その機会に祝賀広告を募り、協賛企業などから広告が入れば、提供できる紙面スペースも大きくなるという仕掛けになっています。

2009年以降の特集記事のPDFがウェブサイトにアーカイブされています。

The Japan Times -- National Day supplement

この中で2010年1月から2016年の1月までは、繁忙期に同僚に助けてもらった以外は、ほとんどが私が編集・レイアウトした紙面です・・今見るとちょっと懐かしいですね。

このような広告特集は邦字紙ではめったに見ません。たまに日経新聞に載せている国があるぐらいでしょうか。国内の英字紙では、読売新聞が発行しているJapan News (以前のThe Daily Yomiuri)も同じような特集をやっています。諸外国ではどうなのか? リサーチ不足でわかりません。

中身としては、たいていは大使の名前で発信する記事で、各国のPRポイントと日本との良好な関係を謳い、さらなる政治経済関係の発展や文化交流を呼びかけるという外交プロトコルに則ったメッセージです。広告がたくさん入りスペースが大きくなると、その国の独立に到るまでの苦難の歴史を振り返ったり、二国間関係について詳細に語ったりという長大な文面になります。その国の美しい風景や外交上重要な写真が添えられたり、大使のメッセージ以外に日本の政財界から祝賀メッセージが寄せられたりする場合もあります。

そういう編集関係の諸々のアレンジを担当していた私は、各国のナショナルデーの時期が近づくと、その国の大使館に原稿依頼をして発行日に間に合うように紙面をレイアウトし記事を編集しておりました。ルーティンワークですが、なにぶん年間100か国以上あるので量的になかなか大変でした。

 担当者としては、各国大使館と小まめに連絡を取り、新聞の一面トップにどんな天変地異が掲載されていても、よほどのことがない限り世界各国のナショナルデーを祝う紙面を粛々と作り続けたのでした。

東日本大震災の直後にはナショナルデーの祝賀レセプションなどが自粛された時期もありましたが、紙面に掲載されたナショナルデー特集には、各国から被災地へのお見舞いの言葉や支援と連帯の呼びかけが見られました。

ニュース記事ではありませんが、ナショナルデーの紙面からも国際情勢が垣間見られます。

たとえば、2011年までは掲載されていたシリアのナショナルデー特集が2012年以降は発行できていません。

リビアのナショナルデーは2009年までは9月1日で故カダフィ大佐の肖像写真が掲げられていましたが、2011年のアラブの春からしばらくは発行できず、久々に掲載したのは2014年でその日付は2月17日に変わりました。

同じくアラブの春を経たチュニジアはナショナルデーの日付は3月20日で変わりませんが、2010年まではベンアリ元大統領の肖像写真が掲げられ、2011年には発行できず、2012年には総選挙の写真とともに掲載されています。

少なくとも、ある大使館がナショナルデー特集を発行したいと思えばできるということが、その国の現政権の状況を推し測る一つの指標にはなります。

もちろん、大使の意向や広告の多寡にもよりますし、そもそもナショナルデー特集企画に興味のない国も多いですが。

大使館にとっては貴重なPRの場、スポンサー企業にとっては大使館に協力するチャンスであり、読者にとっては普段そんなに馴染みのない国についてニュースとは違った形で知る機会、そして、新聞には広告料が入るという「四方良し」みたいな絶妙なパッケージをかつて思いついたのは誰だろう?と感服しておりました。

しかし、このような特集に出稿する企業がじりじり減ってきて、特集に意義を見出す大使館が減ってきているのも現実です。

このナショナルデー特集を含めた広告特集の編集を担当する中でしみじみ実感したのは、新聞はもともと広告あってのビジネスであるということでした。

今後どういう形になっていくのか?現在進行形の模索が続いています。