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よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

ざっくばらんに話し合える場とは?~地層処分カフェに参加して

事業

原発絡みの問題については、自分だけでは何をどう考えていいのかもわからず、無力感と絶望感に陥りがちだ。

どうしたらいいのだろう?自分にできることなんてあるのか?

ということで、稲垣美穂子さんが主催した地層処分カフェに行ってきた。

chihoyorozu.hatenablog.com

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参加者がたった4人とは正直あまりにも少ないと思ったが、これはある意味とても贅沢なことだった。

なんと言おうか、この人数にこの料金で、東大の先生の特別講義を受けたわけだ。しかも受動的な聴講ではなく積極的なゼミだった。大昔の学生時代には経験できなかったような質問し放題の活発な。

その日の講師を務めた徳永朋祥教授は、これまでに私が接した限りの中でも出色のわかりやすい説明をしてくださる驚嘆すべき「専門家」であった。なんでも近年は、スウェーデンの放射性廃棄物処分プロジェクトに関してOECD-NEAの国際評価に参画しておられ、「分厚い資料を読み解くのが死ぬほど大変」なのだそうだ。そういう国際舞台の修羅場を度々くぐり抜けてきたからこそのわかりやすさなのか、見事な比喩を駆使しつつ、素人にもわかる話をしてくださった。

  • そもそも、高レベル放射性廃棄物の地層処分とはどういうことなのか?ほかにどんな処分方法が考えられるのか?
  • 地層処分のサイトとなる深部地下環境に期待されるのは、地表に比べて変動を受けにくく、物質が変質しにくく、物質が移動しにくいという条件である。
  • 放射性廃棄物を閉じこめて安定な形態にしたガラス固化体はオーバーパックという強固な金属製の容器に格納され、オーバーパックと周囲の岩盤との間には、ベントナイトを主材料とする緩衝材が充てんされ、地下水と放射性物質の移動を遅らせる。
  • そのように地層に埋設された放射性廃棄物に対して、地下水の流れはどのような影響を与えるのか?
  • 地表の環境変動(特に約10万年程度の周期で発生する寒冷化・温暖化サイクル)は地下水の流れにどのような影響を与えるのか?
  • 地震は地下水の流れにどのような影響を与えるのか?
  • 処分場建設に関わる人間の活動は地下水の流れにどのような影響を与えるのか?

・・・それでも、一方通行で長い話を聞いているばかりだと集中力が持たなくなり眠気を催したりするものだが、稲垣さんの進行はまさにざっくばらんで、ひと通りのレクチャーを受けてから質疑応答コーナーに移るという形にとらわれず、聞いていてわからなかったり、ふと疑問が湧いたりしたら、その時にその場で「あのー?」と手を挙げて素朴な質問をさせてくれるのだ。退屈するとすぐに眠たくなってしまう私のような者でも、地中深くの構造や地下水についての難解な理系の話に、思ったまま質問しながら、ついていくことができたのは画期的!双方向の充実感があった。

無論すべてを理解できたとは言い難いし、その時にはわかったような気がしたことでも、既に3週間も経つと記憶が薄れてしまっているので、もっと早く振り返っておけばよかったと、その後の自分の多忙が悔やまれるが、それでも、あのディスカッションの充実感は確かな印象として残っている。なんならもう一度同じテーマでも参加したいと思える有意義な時間だった。

なぜ良かったのか?改めて振り返るといくつかポイントがあったように思う。

  • 専門分野を熟知した講師が素人にもわかるようにかみくだいて説明する。
  • 参加者は無知を晒すのを怖れず、随時、質問しながら話についていく。
  • 講師は参加者の質問レベルに落胆せず、「いい質問ですね~」と褒める。
  • 参加者の質問レベルに合わせて講師が誠実にわかりやすく答える。
  • 参加者が互いの立場を気にせず質問し、人の質問にも耳を傾ける。
  • 無理に結論らしいものを出そうとしない。

今回の場合は、人数が非常に少なかったからこそ質問しやすかったと言えるが、仮にもう少し人数が多い場であっても、良い議論ができるかどうかは、講師の説明の巧い下手だけでなく、参加者の知識レベルの問題でもなく、両者の姿勢によるものなのだと感じた。もちろん、司会者が双方向の発言を促す雰囲気作りも大事だ。

これは地層処分の話に限らない。

ちなみに、東京の地下が地層処分に適しているのかどうか尋ねてみたところ、地下水の状況から判断すると「適していない」のだそうだ。東京の地下を最終処分場にすることを真剣に検討すべきだと考えていた私としては残念な知見であるが、そうなると一体どこに最終処分場を設けるのが合理的なのだろうか?立候補する自治体があるだろうか?住民を説得することなんてできるのだろうか?

「どこ」という具体的な立地についての明言を避けつつ、処分場となる場所の地下深くに埋めた高レベル放射性廃棄物を“未来永劫”(無理!?)とまでは言わないまでも、数百年は管理する使命を帯びた研究施設を中心とする学研都市を建設するというイメージが示された。そこに原子力や地層処分に関わる研究者が集まり、家族も住まい、そのための商業・教育・医療福祉施設なども作っていくというシュールな町づくり・・・うーん。

元々簡単に結論が出る話ではないが、何をどのように考えて解決策に近づいて行けばよいのか、疑問を投げかけたりアイデアを出したりすることはできる。知識がないならないなりに、教えてもらいながら、学びながら、立場が違ってもそれぞれの意見を自由に述べ合えばよい。何もわかっていない素人は黙ってろと言われる筋合いもないし、「専門家」を無用に非難していてもはじまらない。

原発問題全般を覆う不毛な対立を見るにつけ、ネガティブな態度からは何も生まれないとつくづく思う。

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たった数人でも、建設的なコミュニケーションの可能性を見出せたのは貴重であり、相互不信ばかりが募って何も解決されない絶望感の中で、一筋の光明を見出すようだった。

次回は1月頃に予定しているとのこと。稲垣さん、私はまた参加しますよ。