新年早々、冬休みが明けるか明けぬかという週末に一泊二日で開催された「中学生サミット」にオブザーバーとして同行した。
原発の「核のごみ」の地層処分について、最先端の研究施設を見学した上で中学生なりに考えるというユニークな試みである。何回かに分けて振り返ってみよう。
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その① 瑞浪超深地層研究所見学
その② 中学生の疑問にNUMOが答える
その③ どうする!?核のごみ
その④ ダイアローグは難しい?
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まずは地の底へ。
岐阜県瑞浪駅に集合した中学生と、主催・引率・オブザーバーの大人たちで総勢約20名。駅から車で5分ほどの瑞浪超深地層研究所へ向かう。
この研究所と、お隣の土岐市にある土岐地球年代学研究所の2つの研究所を有する国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)東濃地科学センター(Tono Geoscience Center)。略してJAEATGCと言うようだが・・原子力関係の機関名は、漢字を並べた日本語でも英語の頭文字でも、何とも長ったらしく似たようなものが多くてわかりづらい。
JAEATGCでは原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)を安全に地層処分するための基盤的な研究開発を行っている。
なぜ岐阜県の山あいにそういう研究施設があるのか?
もともとは1962年にこの地でウラン鉱床が見つかり、旧・原子力燃料公社(原燃≠日本原燃⇒のちに動力炉・核燃料開発事業団=動燃⇒1998年に核燃料サイクル開発機構⇒2005年にJAEAに統合・再編←とにかくややこしい組織の変遷!)により竣工した東濃鉱山で、1971年からウラン鉱床の形態や鉱石の分布状況を明らかにする目的で坑道を掘っていた。1986年からは地層科学研究の場として、主に堆積岩を対象に「岩盤中の物質移動に関する研究」等を行う。東濃鉱山は2004年に休止され、閉山措置が進行中。
日本では1976年から地層処分の研究が始まり、茨城県東海村などで研究開発が進められてきた。1999年に核燃料サイクル開発機構(現JAEA)は地層処分の技術的信頼性を示し、この成果を受けて実際の日本の地下深部に関わる研究を実施するために、2002年に瑞浪超深地層研究所の建設に着工。地層処分や深部地下環境に関わる研究が行われている。岐阜県のほか北海道に幌延深地層研究センターがある。
瑞浪では、2014年に深度500メートルの水平坑道の掘削が終了しており、深度500m研究坑道や深度300m研究坑道を見学させてもらえる。
事前に改めて知識を仕込んでくる余裕がなかったけれど、このJAEATGCのサイトはなかなかしっかりしていて、私のような門外漢や中学生にもわかりやすい「もぐら博士の地下研究室」という楽しいページもある。
地上でJAEAの担当者からひと通りのレクチャーを受けた後、つなぎ服に着替え、反射ベスト・ヘルメット・安全長靴・軍手を身につけ、坑内PHS携行という安全装備の上、いざ地下500メートルへ。ちょっとドキドキ。
3班に分かれて10人乗りの鳥かごのようなエレベーターで立坑を降りていく。坑内は真っ暗だが、100メートルごとに水平坑道との連結部があって一瞬その明かりが見える。1分間に100メートルのスピードで降りて5分もすると地下500メートル近くに到達する。高層ビルから降りる時と同じように耳がツーンとする。
エレベーターから降りて、最後の20メートル余り(=ビル8階分ぐらいの高さ)は90段の螺旋階段を降りる。地上より温かくて湿っぽい。
「“地温勾配”と言って、地下200メートルあたりからは100メートル降りる毎に2~3℃温かくなります。このあたりでは10℃ぐらい温かくてモワッとしています。」
JAEAの福島さんの丁寧な説明を受けながら地下の坑道を歩く。
坑道は思ったより広く、壁面の下の方には剥きだしの花崗岩が見える。
だんだんと下り坂になり、その突き当りには止水壁があった。再冠水試験のためだと福島さんからの解説。
「元々、全ての岩石は水に浸かっていました。ここをいずれ土で埋め戻すと、また水に浸かります。この坑道はまだまだ向こうにも続いていますが、あの扉の向こうには今は水がたまっています。その圧力がどのぐらいなのか?どれぐらい水がたまるのかを試験しているのです。」
「そんなことはまずないけれど」と前置きしながら、万が一扉が壊れても坑道が水没しないように、止水壁の手前は下り坂になっているというお話だった。
止水壁から上り坂をゆるゆると引き返して、エレベーターがある立坑の反対側に行くと同じ深さの通気坑がある。反対側の坑道には地下水の湧水が多い場合の湧水抑制対策として、地下水の通り道となる岩盤の割れ目にセメントミルクなどを注入するグラウト作業を施した壁面も見られた。
万が一の場合の退避場所が設けられ、簡易トイレや飲料水、非常食、救急箱なども準備されている。
見学コースの壁面に沿ってあちこちにパネルが設置されこまごまと説明が書かれているが、そんなに綿々と読む余裕もなく、福島さんのお話を聴きながら歩くこと、小一時間もいただろうか。
自分が地中深くを普通に歩いているのが不思議だったが、一方で、人間は地表からこれぐらいの所まで掘り進むことができてしまうことが実感できた。もっともっと深いところまででも掘ろうと思えば掘れるのだろう。
地下と言えば、私にとっては完全にファンタジーの世界だった。暗くてジメジメしていて水がたまっているイメージだ。中学生の頃に夢中で読んだ『指輪物語』のシーンは映画『Lord of the Ring』で見事に再現されていた。滅びの指輪を拾ったゴラムがホビット族のビルボに会うまで何年もの間ひっそりと隠れ住んでいた地中の水辺である。実際に地下に来てみると、果たして水があった。
岩の隙間からしみ出た地下水が管から流れ落ちて貯水されポンプで汲み上げられ、地上の排水処理設備で処理の上、狭間川に放流される。毎日約800㎥排水されているようだ。
何万年も前に降った雨がじわじわと浸透して、地下ではごくわずかしか動かない。坑道を掘ったことによって流れこむ場所ができるから動くわけで、大量の地下水が沁み出してくるのである。
ここをそのうち埋め戻すのか・・・
瑞浪には「核のごみは持ち込まない」という地元との約束がある。
いつか日本のどこかが最終処分場に選ばれ、高レベル放射性廃棄物が地下350メートルより深い地層に埋設されるというプランが地層処分。以前は地下500メートルなんてうんと遠い所に思えたが、実際に来てみると、あっさりとアクセス可能で拍子抜けするぐらいだ。地下に「そういうモノ」があることを知れば、盗み出して悪事を働こうとする人間がやって来るんじゃないだろうか? たとえ埋め戻してあっても、一度掘れたのだから、また掘ることだってできそうじゃないか。
・・・遺跡のような地下の坑内にドリルで穴を掘って潜入するテロリストから前時代のお宝ならぬガラス固化体に再処理された高レベル放射性廃棄物を守ろうとする主人公が秘密のトンネルで暗闘を繰り広げる・・・サスペンスアクション映画みたいな妄想が膨らんでしまう。
数万年間の地下水の動きや地殻変動は重要な研究課題に違いないけれど、近未来の人間の侵入のほうが怖いような気がした。
もちろん、地上に保管していたら、地震、隕石、津波、台風などの天変地異から爆発事故や火災、戦争にテロリストの侵入など人間が絡む話まで、リスクはもっと大きいだろう。だから、地層処分するのがベターなんだろうなぁという気はするけれど、「伝説の危険物」を見張る「守り人」がどうしても必要だと思う。それは誰だ?政府直属の特殊な科学者集団?!何年ぐらい?数百年?数千年? 世代、時代を超えてどうやって引き継いでいくのか?その頃、日本ってあるのか?
そういう人類の文明の時代も過ぎ去った(?)何万年も遠い未来には、地下深くは比較的安全かもしれない・・・しかし、近い将来のいつか埋めれば終わりというわけにはいかないだろう。
帰りはビル8階分ほどの螺旋階段を昇るのが少しキツかったけれど、エレベーターに乗れば5分で再び地上に戻る。今や地下500メートルが近く感じられる。
中学生たちはどのように感じたのだろう?(続く)