よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

中学生サミット2017その④ ダイアローグは難しい?

一泊二日にわたる中学生サミット。2日目最後のランチタイムを前に早退せざるを得なかった悔いが残り、この際もう一度、生徒たちに会いに行こうと思った。

さすがに六ヶ所村は遠いのでとりあえず横浜へ。最寄り駅から歩いて20分ほどの高台にある立派な校舎で再会した彼らは、旅先でのような「借りてきた猫」感がなくリラックスして声もワントーン落ち着いている。

ファシリテーションは難しかった?

中2K君:後半は「もっとみんなの近くに入ってサポートしたほうがいいよ」という(澤田先生の)アドバイスを受けたので、そういうことをしてみたら、ちょっとうまく行ったかなあと思ったんですよ。前半もそういうふうにできたらよかったと思いました。

― 後半というのは輪になって話し始めてからですね?じゃあ、隣の人と話すようなことをもっとやれば良かったと思いました?

中2Y君:でも、付箋を貼って、それをメリットとデメリットに整理して考えることが対話の前提条件じゃないですか。それがわかっていなかったら対話すら成り立たないから。

― それはみんな一生懸命やってましたよね。

中2K君:その時にも、もうちょっとみんなの近くでサポートできたらよかったかなと思います。

「核のごみ」のいくつかの処分方法について、それぞれのメリットとデメリットを自分なりに考えて付箋に書いて貼り、他の人が書いた付箋も見て整理するという作業自体は楽しかったと1年生の女子がみな肯く。

 

― そういうお勉強はみんな得意のようだけれど、それを元に話し合いをするのは難しそうですね。周りで大人がいっぱい見ていることも気になりましたか?

中1Sさん:それはあまり気になりませんでした。

中1Yさん:大勢の人が聞いているのでちょっと緊張はしました。

― まだ自分の意見を言うのは難しいのかな?

中1Nさん:そうですね・・・

もうちょっとよくわかってから言いたいという感じ。でも理解をするにはまだ時間がかかるようだ。大人だってよくわからない難しい問題だから当然だ。

家に帰ってお父さんお母さんにはどんなふうに報告したかと問うと、そんなに詳しい報告はしなかったが「安全に帰れた」とか「勉強になったよ」ぐらいのことは言ったらしい。保護者の方々はとりあえず安堵されただろう。それにしても地下500メートルの坑道の見学なんてなかなか経験できない。行ったことは「良かったです」とみな声を揃えた。

 

― これから自分としてはどうしたいと思いますか?

中1Sさん:因果関係やメリットやデメリットをもっと知って、どうしたらいいっていう、考えられる対策とかを発言できるようになりたいなと思います。

― ふーん、そうすると本当はもっと言いたかったんだけど、そこまでの知識もなく、あの場で初めて見聞きする話が多いし、自分の考えがまだまとまる手前ということだったのかな?

中1Sさん:はい。まだ自分の意見がまとまっていなくて、どういうメリットとデメリットがあって、どういうのはダメでというのはまとめたんですけど、それで最善の策というのを取っていくんですけど、なんか実感があまり湧かなくて、どうしたらいいって単純に言えないので、理解するのがきつかったです。 

― (ファシリテーター役だった2年生の)3人でイメージしていた話し合いというのはどんな感じだったの?

中2T君:正直もうちょいポンポン意見が出ると思いました。

中2Y君:自分の考えを持ってたら、それこそ付箋にバンバン書いて貼ってもらえると思いました。去年はもう、とにかく書きまくって貼りまくったんですよ。

今回司会じゃなくて、自分も話し合いに入っていたら3人とも言いたいことがいっぱいあったそうだ。そこは、ファシリテーター役に徹するなら出しゃばってはいけないと思い、「自分の意見」を述べるのは差し控えていたという。

六ヶ所村の生徒さんたちと少し話して、印象に残っているコメントはありますか?

中1Sさん放射性廃棄物があることについて、イヤだなあとか怖いなあというのは感じてなくて、東京のほうだと土地が高いとかそういう問題があるからこっちにあるというふうに思ってて、別にイヤだとは思っていないというのが意外でした。

輪になっての小声の話し合いの中で「地層処分を六ヶ所村でやってもいい」という発言がチラッと聞こえたが、「それはすごく驚きました」と中2の男子たちが答えた。隣の席になった六ヶ所村の生徒と話したそうだ。「もう(低レベル放射性廃棄物六ヶ所村に)来てるのだから、これ以上悪くなることはないと思っているようだった」という。「輸送する手間もあるし、六ヶ所に埋めちゃえばいいんじゃないかなというようなことを言ってました」と。みんなが同じ意見ではないだろうけれど、六ヶ所村の中学生の生の声を聞くのは貴重な機会に違いない。そして都会の子たちは、彼らなりに「東京の押しつけ」を申し訳なく思っているのである。

― では東京に埋めますか?

中2K君:僕は電力を使う都市圏に埋めるべきだと思います。

中2Y君:正直、埋めてほしくはないです。こういうところに。でも、それ日本国民というか全員だと思うんで。わざわざ埋めてほしいっていう人は絶対いないわけですから。

埋めること自体は「必要だ」と思っている。今回の新しい話題として出てきた沿岸海底下処分は「住民の反対もまだ少なそうだし」「海を汚染するリスクはあるけれど」一つの可能性としてはありうるという反応を見せつつ、本当に地下に埋めていいのかどうかと突き詰めると、それこそ「大人たちの意見を鵜呑みにすれば」安全だということになるけれど、そこは本当にわからない・・・わからないからその場がシーンとなる。わからないけれど、わからないなりに意見が出ればよかったのだろうか。

―(話し合いのテーマに関わらず)シーンとなった時って、シーンとなったまま、自分もシーンとしてますか?

中1Nさん:私はそうです。

中1Yさん:言う人は決まっていて、その人が言わなければそのままです。

中1Sさん:私は、沈黙を破りたいと一時的に思うんですけど、みんなが考えた意見などを整理する時間としては適切なので、悪くないとは思っています。

― ふーん。しばらく黙って考える時間も必要ということね。時間配分の問題もあったんでしょうか?8日の午前中だけじゃ足りなかったのかな?でも時間が余るのを心配してたよね。

中2Y君:3時間の予定だったんですけど30分早く始めたんで、結果的には15分延びたんですよ。なので「対話の時間」がもうちょっと欲しかったかなと思います。

メリットとデメリットを整理する段階では、そのあとどう進めるかあまり考えていなかったらしいが、輪になって隣の人と話す「対話」をやり始めてみると面白くて、続けていたらもっと意見が出そうだなぁと思うところで終わった・・という状況のようだ。

― じゃあ続きをやりたいですか?

中2K君:やる機会を設けていただけたら。

六ヶ所村に行ってみたいですか?と水を向けると、「あ、行ってみたいですね!」「あれ(再処理工場)が見られるのなら」「日本原燃には言いたいことがいろいろある(!)」と2年生の男子たちが前向きの反応を見せる。彼らは昨年の秋、浜岡原発を見学した経験もあるのだ。やはり、現場を見るのは大事だと思う。

六ヶ所村を訪ねて、今回のサミットで一緒だった生徒たちと再会すれば、ワンステップ進んで、彼らの意見も聞きたいし自分の意見も言えるようになりそう・・・中1女子の面々も。

難しいテーマだが、「中学生サミット」はざっくり言って「今回参加して楽しかった」し、「来年もまた行きたい」ということで意見は一致した。そして、来年行くときには自分なりにこうしようと思うことが各々あるようだ。

 前回サミットでファシリテーター役を務めたのは、昨年12月に東工大で開催された「白熱教室」にも参加していた現中3女子の先輩たちだ。

中2Y君:あの人たちすごくしゃべれるんですよ。今回、自分たちは1年生に対して「これやってください」って遠くから言うだけで、しゃべれなかったじゃないですか。

中3の先輩たちはすごい!とそこは感服しているようだ。中3の彼女たちには、とにかく発言しようという積極性があるのは確かだ。先日の「白熱教室」でも、途中で何を言っているのか自分でもわからなくなる迷走発言があろうとも臆することなくとにかくしゃべる。

― 意見をいう時はもっときちんと言いたいということ?

中1Sさん:そこまでではないんですけど、あまり文が整っていないと、何が言いたいの?という質問が多く出て答えられないのがきついので、やっぱりそんなに疑問が出ないぐらいには言えたほうがいいなと思います。自分の中でこんがらがると会話が成り立たなくなるので、それはイヤだなあと思います。

中2K君:でも、突っ込まれてもそれに対応することも社会では必要なので、それでもいいから言ってほしかったと思いますが、促すのも少し足りなかったというか。

― いえいえ、一生懸命促してましたよ。でもそう言われても・・という感じなのかな?責めてるわけではないんですよ。

中1Sさん:建設的対話をしようとは思うんですけど、頭の中で意見がまとまっていないとどうしても否定的な会話になってしまうと思って(言いませんでした)。

― みなさんの中にそんなに対立する感じはあったんでしょうか?みんなそんなに違った意見じゃないかもしれないけどそれをお互い言わないで終わった感じですか?

中2K君:お互いの意見もそう違わなくて、よくわかんないなあという、わからなさがみんな似ていたんだと思います。内容が難しかったからかもしれませんし、こちらの運営の問題もあったと思います。

昨年は話し合いが盛り上がったそうなので、改めて聞いてみたところ、確かに意見は活発に出たけれど、(瑞浪の)研究所や初日の夜のセッションで地層処分について受けた説明、つまり大人の考えを鵜呑みにしている感じだったと振り返る。また、昨年はディベート形式だったので、自分の考えはさておき、地層処分に賛成の立場と反対の立場に分かれて、それぞれの立場から意見を戦わせたので話はもっと単純だったようだ。

今年はディベート形式ではなく、様々な処分方法のメリットとデメリットを整理したうえで、「自分の考え」を出し合う対話を目指したのだが・・・

中2T君:去年のディベートをそのまんまパクッてやるのはいやだなあと思いました。

中2K君:バトルするのもやめたいなあって。

ディベートと言うのは、地層処分に賛成と反対に分けてバトルするんですね?

中2Y君:どっちの側になってもいくらでも意見が出てくるんです。

― 自分の意見はさておいて、どちらかの立場に立って意見を言うんだったらもっと言いやすかったですか?

中1Sさん:いちおう議題が決まっていたら話し合いの筋というのはあるので、するとどうしても・・・(しばし黙考)・・批判することはできるんですけど、なぜこちらのほうがいいのかはあまり意見を出せないほうなので、対立型だと相手を批判してもなぜこちらのほうがいいのか出せなくなります。

― すごくよく考えてるよね・・そうかそうか。つまり、今回はディベートじゃなくて、「核のごみ」の複数の処分方法について、それぞれのメリットとデメリットを挙げて、それをみんなの共通認識にした上で、自分はどうするのがいいと思うかをいろいろ出してもらおうと思ったということですね?そうしたらまだまだ整理しきれなくて、難しくて、自分の考えを言えなかったということ?

中2K君:大人でもわかんないでしょ?

― わからないですよ~ 難しい問題です。ウェブサイトにもありとあらゆることが書いてあって読み出したら本当にわからなくなります。みんなは中学に入ってすぐぐらいからこの問題について考えていること自体がすごいと思いますよ。

理科部という部活動でこのような取り組みがなされていることに感銘を受けた。「なんで理科部を選んだの?」と聞いてみたら「それ聞かれるのいちばんヤバイんです」と言いながらみんな口々にあれこれ言ってひとしきり盛り上がる。いい仲間だね・・・

大人の専門家の説明ぶりがどう聴こえたかも敢えて尋ねてみた。大人の言うことは信用ならん、何かもっともらしいこと言っているけどどうなんだろう本当は?という印象を受けたのか、それとも、やっぱり専門家としてその分野のことをよく知っている人たちが言ってることだからそうなんだろうと思ったのか?

 

今年初めて参加した1年生の女子たちは「半信半疑」「だいたいは本当なんだろうけど少しは盛ってるのかなと思ったり」と比較的クールだったが、それぞれの分野の専門家たる大人が、中学生にもわかるようにいろいろ説明してくれているということは、素直に受けとめているようだった。一方、2年生の男子たちは「昨年は完全に鵜呑みでした」と振り返った上で、今年は「疑問を持ちながら話を聞いた」とか、「とりあえずひと通り聞いておいてあとでネットで調べて照らし合わせたりした」とか。なかなかの批判精神だ。

一足先に下校したK君は、いち早く今回の「中学生サミット」の感想を提出していた。理科部の宿題らしい。そのパソコンで打った文書がまた事前の要望書に劣らぬ立派な書きぶりである。

「①参加決定までの経緯
11月に部活動顧問より、主催する澤田氏から来年の中学生サミットに司会としての参加を求められるかもしれないとの旨が伝えられ、参加する意欲があるか尋ねられました。そのとき私は・・・(以下略)」

机の上に置かれたK先輩の感想文を読もうと1年生の女子たちが身を乗り出してくる。顔を寄せ、こちらの顔とも最も距離が縮まった瞬間だった。どちらかと言えばおとなしく慎重な彼女たちに「書くほうが得意?」と聞いたらニコッと笑って肯いた。

もちろん、話し合いは盛り上がったほうが楽しいし、充実感や達成感もあるに違いない。しかし、仮にそこまで活発でなかったからと言って、「話し合いの訓練が足りてない。だから日本の学校教育はダメだ」と断じるのではなく(確かにそういう面もあるが)、気軽に意見を言える積極性だけでない思慮深さも一方で評価したい。あの場であのような巨大なテーマに取り組んで、一人ひとりの生徒たちはそれぞれ刺激を受けている。心の中で様々な動きがあるのが感じ取れた。このままでいいとは思っていない。次に同じ話を聞くときには違った耳で聞こう。自分の考えを整理して次には言えるようになろう。そして、建設的な話し合いができるようになりたいと。

 

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