よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

トランペット@古民家

トランペット奏者・オリパパこと織田準一さん、作曲家・オリママこと織田英子さんご夫妻に初めてお会いしたのは数年前。しおみえりこさん&橋爪恵一さんが主宰する立川のLaLaLaアーティスティックスタジオでのコンサートだった。

それ以来、ときがわ町のお宅をお訪ねしてみたいなぁとひそかに憧れていた。先ごろコンサート開催のお知らせがあり即決!「ぜひ伺います~♪」

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このところの陽気で一気に桜の開花が進んだ都内はまさにお花見日和だった先週末、いざ埼玉へ!勇んで出かけた。山手線で池袋まで周り、東武東上線の急行に1時間ほど乗っていると、志木も川越も東松山も通過して、武蔵嵐山(むさしらんざん)という未知の駅に到着。快晴だ。ここからさらにバスに乗る。途中、せせらぎバスセンターで別のバスに乗り換えると乗客は私1人。貸し切りである。普通はクルマで来る所なのだろう。山里の景色を眺めながら、のんびりバスに揺られているとやがてときがわ町(2006年に玉川村都幾川村が合併した由)の目的の停留所に着いた。バスを降りると道路脇で関係者の方々が出迎えてくれている。

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織田邸は「プロの手も借りながら」織田さんが自ら丹精込めて手入れされた古民家である。どっしりした柱と梁の焦げ茶色と壁の白のコントラストが美しい。

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玄関を上がってすぐの板の間に椅子が並べられ、40人ほど座れる。続きの間の壁際にはピアノがある。ピアノの手前のテーブルの上になぜか座布団が置かれているのをいぶかしんでいたら、ご友人の三遊亭鬼丸さんが落語を一席。あれは即席の高座だったのだ。蕎麦のすすり方など落語のキホンのキをマクラに楽しい前座を務めてくださった。

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鬼丸さんの出囃子「草競馬」を吹いておられたかと思ったら、次はご自身の出囃子を吹きながらオリパパさんが登場してゆるゆるとコンサートが始まった。

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トランペット・ソロだけのコンサートというのはなかなか珍しい。少なくとも私は初めてだった。「トランペットのソロなんてオーケストラの曲だとせいぜい5秒ぐらいですからねー」というオリパパさんの軽妙なトークに、「いや~50歳ぐらいの頃に突然ソロをやりたいって言いだして、ネタがないから書いてくれって言うんです」とオリママさんが入れる合いの手が絶妙な夫婦漫才で場が和む。

オリパパさんのトークは歯に衣着せぬ物言いのようでいて全然悪い感じを与えないのが人徳。演奏もさることながらトークが楽しくてファンになる。昨日と今日のコンサートは来たる地元フェスArtokigawaの資金のためなので「ゼニパパです」なーんてね。コンサートチケットの形でリアルにお役に立てるなら嬉しい。

高らかで、かつ、やわらかい音色でオリパパさんのトランペットは歌うようだ。もちろん、ピアノ伴奏はオリママさん。夫婦漫才と同様に円満なる共演が展開された。

数少ないトランペット・ソロのクラシック曲である「白鳥の湖」の「ナポリ」の高速のパッセージがお見事。確かにトランペット・ソロのために書かれた曲というのは少ないようだ。バッハ、シューベルトカッチーニの3人がそれぞれ作曲した神々しい「アヴェ・マリア」、ジャズナンバー「Fly me to the Moon」や「A列車で行こう」、映画音楽「ムーン・リバー」「慕情」 などなど、おなじみの名曲の数々は当然オリママさんの編曲によるものだった。

休憩後に演奏されたオリママさん作曲の「9月の雨」や「ラッパ日和」、ジャズ・トランぺッターである息子さんがご友人の結婚祝いに作曲したという「茜色ロマンス」などのオリジナル作品も美しかった。

オリママさんの曲は、すぐに口ずさみたくなるメロディに溢れているのだが、ただ親しみやすいだけでなく、随所に散りばめられた微妙なマイナーの和音が切なく心の襞をまさぐる。温かい気持ちに包み込まれながら、ちょっと泣きたくなる感じ。それにしても、オリママさんが作った曲をオリパパさんが吹くっていうのは実に素敵だ。

前座にも驚いたが、もう一つ驚いたのは会場の椅子と同列に、ときがわ町在住の鍛鉄作家・小峰貴芳さんの「座れる」作品が並べられていたこと。

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なんと屋久杉で作られている! 休憩時間に座ってみた。不思議な形だが意外と座り心地は悪くない。ただし、長時間は無理かな・・背筋が伸びるパワフルな椅子だ。

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オリパパさん&オリママさんご夫妻。
鍛鉄作家の小峰貴芳さんが屋久杉の椅子について説明する。

 

お客さんの半分は地元の方々のようだったが、やはり遠方から訪ねてこられたご友人や元のお弟子さんたちもおられた。開演前に少しだけお話したカナダ人のご夫婦が1曲終わるたびに小さな声で「Wow!」と感嘆しておられるのが真後ろの席から聞こえてきた。休憩時間にはお茶とオリママさん手作りのチョコレートケーキをいただき、音楽が始まると、うなずきながら耳を傾ける人、ゆったり揺れながら身体ごと聴いている人、みなそれぞれに楽しんでいる。こんなに間近で生の音楽を共有し、アンコールの「ときがわマーチ」には一同自然に手拍子するという親密な空間には幸福感が満ちていた。

ニッポンのふるさと感あふれる山里の生活の場で、音楽もアートも自然な形で楽しめるのは素晴らしい。4月には地元のアートフェスティバルが開催される。

第4回Artokigawa展が4月14日・15日に開催!ー あ~ときがわ公式サイト

もちろん、オリパパさんとオリママさんも参加される。

また遊びに来たい。

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道路を挟んで向かい側に梅の花が咲いていた。
このあたりでは桜はこれからのようだ。