よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

サントリーホール オープンハウス② ホールで遊ぼう!

プレビュー記事というのは罪なもので、自分がまだ見聞きしていないイベントについて、主催者側へのヒアリングやプレスリリース、場合によっては関係者へのインタビューを元にまとめるわけだが、「実際はどうなんだろう?」と心配になる。サントリーホールは知っていても、オープンハウスにはこれまで来たことがなかった。何度もやっているイベントでも、何か新たな試みもあろうし。「サントリーホールで遊ぼう!」と言うけれど、どれぐらい人が集まるものだろうか? 確かめに行かずにはいられない。

しかし、そんな心配は無用だった。

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4月1日。日曜日の昼過ぎ。葉桜ながらアークヒルズ周辺一帯では「さくらまつり」を開催中。マルシェやグルメ屋台で賑わうカラヤン広場で、今日は無料で一般公開というサントリーホールにも続々と人が入っていく。例年1万人を超える入場者だとか。2年ぶりだからもっと多いかもと広報の方が言っていた。大盛況だ。プレビューなど不要だったか・・と思いながらも、たまに外国人の家族連れを見かけるとちょっと嬉しくなる。あの記事を読んだかどうかはわからないが。

赤い絨毯が敷き詰められたエレガントなロビーにもホール内にも家族連れが多い。いつもは見られない光景だ。大ホールに入ろうとすると、ステージに上がりたい人々の行列ができていた。廊下に出ると、人気の「おんがくテーリング」に興じる子どもたちが、次のチェックポイントを目指して小走りに行く。

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正面ロビーから「おんがくテーリング」をスタート。
ホール内を探検するのはさぞ楽しいだろう。

 

2階に上がりステージ奥のP席側まで行くと、小さな男の子が座席横の階段をぴょんぴょん降りていく。息子たちが幼かった頃を思い出す。

 

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ガイドツアーに参加中の人々がパイプオルガンの説明を熱心に聞いていた。

 

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ステージの上では順番に指揮台に乗って指揮棒を持たせてもらってハイ、ポーズ。記念写真を撮ってもらえる。

 

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ブルーローズに入れるのは400人弱。この時間帯のコンサートはすでに満席だった。次の回には入ってみよう。

今日は横使いの座席がほぼ埋まっている。ステージの横の席しか空いていなかったので下手側の前の方の席に座ったら、これが絶妙のポジションだった。ステージに立つオペラ歌手たちの横顔が素敵だっただけでなく、視線を右に移すと、舞台の方を向いているお客さんたちの顔が見えるのだ。

ステージからバリトン村松恒矢さんが「彼女がいないんだ・・一緒に探してくれる?」と悲し気に頼むと、客席から「いいよ!」と即答する明るい声が。子どもの反応っていいなあ。そして、会場の子どもたちが(大人たちも)声を合わせて「ぱ・ぱ・げぇーなぁ~~!!」と叫ぶと、通路後方からソプラノの金子響さんが現れ、「パ・パ・パ」のデュエットが始まった。30分という短い時間に名曲が次々。サントリーホール・オペラ・アカデミーの5人が若々しい美声と芸達者ぶりを見せてくれた。楽しい日本語のトークが続いたかと思ったら、さっと表情を変えて『フィガロの結婚』のケルビーノは「恋とはどんなものかしら」を歌い、『ラ・ボエーム』のミミが「私の名はミミ」と名乗る。子どもたちの多くは、目の前でお兄さんやお姉さんが熱演する、ただごとならぬ歌声にポカンと口を開けて魂を抜かれたような顔だ。なんかよくわかんないけどスゲ〜 っていう感じだろうか。

オペラ名曲コンサートのフィナーレは、やっぱり『こうもり』の「シャンパンの歌」。5人のソロが次々に「乾杯!乾杯!」を溌剌と歌い上げるのを、私の少し右の席にいたシニアの女性の方が拍子に合わせてニコニコうなずきながら聴いておられる。その笑顔があまりにも楽しそうで、主催者でも出演者でもないのに嬉しくなってしまう。

大ホールに戻ってみるとちょうどパイプオルガンの演奏が始まっていた。2階の上手の座席からは奏者の山口綾規さんが生でもよく見える上に、舞台上手側の壁に映し出された巨大なモニター映像もすぐ横に見える。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」をパイプオルガンで弾くのはかなり無理があるように思われたがなかなか面白い。4段の鍵盤を手指が疾走し、足も忙しく駆使した怒濤の演奏ぶりがモニターに映し出されて壮観だった。バッハの小フーガ ト短調BWV578が荘厳に響き渡る中、1階席を見下ろすとほぼ満席。赤ちゃんを抱いたお母さんたちもあちこちにいる。母の胸に抱かれた幼な子たちもホールいっぱいのオルガンの響きを感じていたに違いない。

再びブルーローズに移動してピアノ・トリオを堪能し、最後は大ホールに戻って横浜シンフォニエッタのオーケストラ・コンサートへ。参加型ブラームスハンガリー舞曲を手拍子足拍子で楽しんだ。こういう場面では打楽器奏者が場を盛り上げてさすが。指揮者の田中祐子さんのチャキチャキと場を仕切る采配ぶりもさすが。

ちょっと様子を見たら帰るつもりだったのが、大ホールとブルーローズを行ったり来たりしているうちに、気がついたら3時間経っていた。つまり、オープンハウスは存分に楽しめるイベントだった。よかった。

無料で、子連れもOKであれば、コンサートホールに老若男女、家族連れがこんなに詰めかけるとは。連れてこられた子どもたちも実に楽しそ うだった。コンサートホールって楽しい!また来たい!と思ったら、徐々にいろんな音楽を生で聴くようになるのではないだろうか。クラシック音楽のファンの高齢化が問題とされて久しいが、一生好きなものが好きなのは悪くない。そして、子どもたちも若者たちも、楽しめる機会があればきっと好きになると思う。クラシックでなくてもいいけれど、クラシックもいいね!と。心を震わせる音にきっと出会える。(終わり)