よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

福島の高校生たちが見たベラルーシ 〜日本・ベラルーシ友好訪問団2018報告会その①

三連休最終日の体育の日、福島県内の「Jヴィレッジ」で、この夏ベラルーシを訪ねた高校生たちの報告会が開催されるというので聴きに行ってきた。

楢葉・広野両町にまたがる国内初のサッカーのナショナルトレーニングセンターだった「Jヴィレッジ」は福島第1原発事故の対応拠点となり休業していた。この夏7月28日、7年4カ月ぶりに再開されたばかりである。

東京から6時53分の特急ひたち1号に乗って、10時の開会にぎりぎり間に合った。前の方の席に座ると、来賓席から吉野前復興大臣、森まさこ参議院議員広野町の遠藤町長らが次々に挨拶。予想以上に大層な会であるようだ。

今年の夏休み中7月末から8月上旬の10日間にわたり、福島県浜通りの高校生24人がベラルーシを訪問した。

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なぜ、ベラルーシか?

32年前の1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発ベラルーシの南隣のウクライナ北部にあり、当時の風向きの影響で放射性物質の70%はベラルーシ側に降り注いだという。放射能汚染の被害を受けたベラルーシの現状を見るため、福島の高校生たちが、単なるベラルーシ観光ツアーではなく、汚染が最も厳しかった南部のゴメリ州内の関連施設や学校も含めて訪問し、現地の方々との交流を通じて学ぶというプログラムである。昨年に引き続き実施されたプロジェクトで、昨年の成果がまとめられた訪問記も会場で配布された。

高校生たちは5〜6人ずつのグループで分担して準備を進めてきたようで、並んで登壇すると緊張した面持ちながら、代わる代わる自分の言葉で発表し、しっかりとプレゼンを進めた。

  • ベラルーシとはどんな国か。
  • 日本では急ピッチで除染が行われたが、ベラルーシではチェルノブイリ原発事故後、消えてしまった村があり除染もされていない。
  • 一方、ベラルーシでは30年以上経ってもチェルノブイリ対策局が国としての対策を続けているが、日本の復興庁は2020年度末で廃止される時限組織であることを疑問に思う。
  • ベラルーシでは家畜を連れて避難することができたが、福島では殺処分という措置がとられたことを疑問に思う。
  • ベラルーシでは30年以上、被災地域の子どもたちのケアを継続しており、子ども保養施設「プラレスカ」を国が運営し、子どもたちに無償で提供している。
  • ベラルーシの学校では交通安全と同様に小学校から放射線教育が実施され、中学校では部活動として放射線量を計測し地域にも情報発信するなど、以前は人が住めなかった地域で今はどう安全に生活するかを学び実践している。

 

原発事故だけではない。

  • 第二次世界大戦の悲惨さを伝えるハティニ村の銅像に感銘を受けた。言葉がわからなくても見ただけで伝わる展示物が福島にもあったらいい。
  • 世界中で1億人以上が利用する人気のオンラインゲーム「World of Tanks」を制作するゲームストリーム社を訪ね、社長からリーダーシップとは何かを学んだ。
  • ベラルーシの人々にも福島の魅力を伝えるために行ったホテルでのプレゼンには100人もの参加者があり、またショッピングセンターで披露した「ソーラン節」も大勢の人たちが見てくれて嬉しかった。

高校生の目で実際に見たこと、感じたことが生き生きと語られたのだった。

このベラルーシミッション後、この三連休に実施された県内の中間貯蔵施設や福島第二原発の見学など、日本ミッションの感想も発表された。

  • 中間貯蔵施設でのロボットの導入は地元企業の育成につながり福島の新たな産業になるのではないか。
  • 中間貯蔵施設1か所で約4万㎥の除染土が貯蔵できると聞いたが、県内で発生した2000万㎥の除染土を貯蔵するには単純計算で500カ所になってしまう。そんなにたくさん建設できるのか?
  • 原発敷地内はもっと線量が高いのかと思っていたが、第二原発では0.6μSb/hと低いことが意外だった。また、放射性物質を扱う施設がどれほど厳重に管理されているかを初めて見た。
  • 自分がこの地域の力になりたいと強く思った。

福島の高校生の姿に触れるたび、声を聞くたびに、なんとしっかりしていることかと感服する。このような場で話をする機会も多いのだろうか。そうでなくとも、小学3年生で東日本大震災を体験した彼らは、東京からは計り知れない様々な思いをもって原発と向き合って成長してきたのだろう。

2年ほど前に東京で開かれたイベントで聞いた福島の高校生の言葉が忘れられない。

「震災後、都内で20万人規模の反原発デモがあったとかいう話が出たけれど、東京の人たちが現地に行かないでニュースで流れる情報だけで判断して、そのイメージが先行したデモは、被災者がさらに風評被害を受けることにもつながります。当事者を置いたまま、よく知らない人たちが行動を起こすのはあまり嬉しくないです。だったら福島に来てもらってちゃんと事実を知ってもらってその上で原発に反対でも賛成でも主張してほしいと思いました。」

そして、今回の高校生たちは強い当事者意識を持って、原発事故から30年以上の知見を持つベラルーシに学ぼうとしているのだ。(続く)

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  昨年2017年のベラルーシ訪問をまとめた冊子