よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

中学生サミット2018その① 六ヶ所村へ

昨年末、冬休みに入ったばかりの三連休に二泊三日で開催された「中学生サミット」にオブザーバーとして同行した。

「中学生サミット」は、原発で出る「核のごみ」の問題について、中学生たちが考えるというユニークな企画である。東京工業大学の学術フォーラム「多価値化の世紀と原子力」(代表:澤田哲生助教)の主催で過去6回開催され、これまでは岐阜県瑞浪の超深地層研究所の試験坑道を見学してから討論会という形だったが、今回は発電所から出た核のごみを持ちこんで処理し新たな燃料を取り出す現場である六ヶ所村の原子燃料サイクル施設を見学する運びとなった。このサミットに同行するのはこれで3回目。今回の生徒たち同様、私も六ヶ所村を訪ねるのは初めてである。

だいぶ時間が経ってしまったが、改めて振り返ってみよう。

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その① 六ヶ所村
その② 六ヶ所村の人の話を聴く
その③ 六ヶ所村バスケット
その④ NUMOへの質問
その⑤ 自分が自治体の首長だったら?

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これまでは瑞浪の深度500メートルという「地の底」に潜るところからスタートしたこのサミット、このたびは「地の果て」へ・・などと言っては失礼だが、やはり、六ヶ所村は遠かった。東京からは新幹線で八戸まで3時間弱だが、さらにバスで1時間半ほどかかる。今回は、原発立地地域である佐賀県島根県新潟県福島県と電力消費地である京都府、愛知県、東京都から6校合計29名の中学生・高校生が参加した。佐賀組は前泊だったし、島根組は当日の朝、濃霧でフライトが遅れたため新幹線の乗り継ぎや八戸からのバスに間に合わなかった。引率する大人もさぞかし大変だったことだろう。

正午の八戸駅は穏やかな上天気で気温は7度。厳しい寒さを覚悟して来たのでちょっと拍子抜けだった。「本当はこんなもんじゃない」異例の暖かさだったらしい。夏は「やませ」、冬は地吹雪が凄いという土地柄、道路の両サイドには防風柵が設置され、バスの窓からの風景も切れ切れに遮られるが、ごぼうや長芋など根菜を収穫した後の畑と雑木林が続くほか、雪に覆われた湿原が時折見えた。

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下北半島を北上して六ヶ所村に入り、まずは原燃PRセンターへ。

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ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、再処理工場などの「原子燃料サイクル施設」の役割と仕組みについて、模型・映像・パネルで紹介している施設である。

PR映像を見てから原燃の担当者の説明を聞く。

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BWR(沸騰水型原子炉)の燃料6体分にあたる使用済み燃料1トンを再処理することによって、取り出したプルトニウムからMOX燃料1体、取り出したウランを再濃縮してウラン燃料1体、そして、燃料にならない高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体1本になるという話だった。また、再処理しない場合は、半減期の長いプルトニウムなどが含まれるため、天然ウラン並みの有害度まで放射能が逓減するまでに約10万年かかるが、ガラス固化体の場合は、約1万年で天然ウラン並みになるそうだ。

問題は、このガラス固化体を1万年間(?)、どこに保管、もしくは隔離しておくのかという「最終処分場」がいまだに決まらないこと。それがこの中学生サミットで考えようとしているテーマである。

座学の後は、案内スタッフの誘導で再処理工程がよりリアルにイメージできる模型などを見学したが、実際の再処理工場は、2006年から「試運転中」のままであり、竣工時期は今のところ2021年度上期と当初予定より大幅に遅れている。予定されている最大処理能力はウラン年間800トン、使用済燃料を貯蔵できる容量は3,000トン。これまでの試運転で425トンを再処理したほかは、日本全国の原発から受け入れた使用済み燃料2,968トンを貯蔵している。つまり、プールはほぼ満杯ということか・・・

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本格稼働した場合に出る放射性物質については反対運動の立場から根強い懸念があるが、原燃の資料によると、再処理工場からの放射線量は自然放射線の約100分の1であり、さらなる安全対策も講じているとのことであった。

PR館の3階では地上20mから360°の大パノラマを楽しめる。尾駮沼方向には、再処理工場をはじめとする原子燃料サイクル施設と太平洋が一望でき、反対側に廻ると、風車がたくさんあって驚いた。やませを利用した風力発電基地で、92基の風車があるそうだ。また、むつ小川原国家石油備蓄基地には51基のタンクがあるなど、六ヶ所村にはエネルギー関連施設が集中しているのだ。

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PR館見学の次は、原子燃料サイクル施設内の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターへ。さすがに原子力関連施設だけにセキュリティが厳しい。外観も内部も写真撮影不可。スマホタブレットの持ち込みも不可。事前申請は当然のこと、一人ひとりゲートで確認の上、管内に入る。

日本の9電力会社と日本原子力発電(株)は、原子力発電所から発生する使用済燃料の一部を、フランスとイギリスの再処理工場に委託している。再処理し分離されたウランやプルトニウムは、原子燃料として再利用するため電気事業者に返還され、同時に発生する放射性廃棄物も返還されるが、このうち、高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体として、六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで、最終的な処分に向けて搬出されるまで30~50年間冷却・貯蔵される。

フランスからのガラス固化体の返還は、1995年4月から始まって2007年8月末に完了した。現在、1,830本が六ヶ所村に貯蔵されている。イギリスからのガラス固化体の返還はこれからだ。

これまでに訪ねた瑞浪岐阜県)や幌延(北海道)の深地層研究施設と大きく異なるのは、ここ六ヶ所村には本物のガラス固化体、即ち放射性物質があること。剥き出しで近寄ると20秒で死ぬという怖ろしい代物だ。見学者が入れる通路からガラス窓越しに覗き見る形ではあるが、そのような物体が運び込まれる工程がわかった。ガラス固化体28本が入る輸送容器が海外から到着したら、クレーンでガラス固化体受け容れ建屋に運び込み、検査の後、床面走行クレーンを遠隔操作してガラス固化体貯蔵建屋に移動する。

ガラス固化体貯蔵建屋の貯蔵ピットに、直径40センチ、高さ130センチ、重さ500キロのガラス固化体がタテに9本積んで収納され、床面にオレンジ色の蓋が並んでいる。蓋で遮蔽すれば上を歩いても大丈夫だって!?そういう写真も見た。その日は人の姿は見当たらなかったが、“怖いもの見たさ”と言おうか、あのオレンジ色の蓋を踏み歩いてみたいような気持ちに駆られた。

ここで30年から50年間、空気で冷やされるという。その後は何処へ?

駆け足の見学であったが、これからどうするか決めなくてはならないガラス固化体が、当面どんな場所で保管されているのか、少なくとも垣間見ることができた。

「百聞は一見に如かず」と言う。一方、このあいだ別件の取材で「しかし、一見が誤ったイメージをもたらす場合もある」と言った人がいた。確かに、一度や二度、行ったぐらいで何かがわかると思ってはいけないだろう。だいたい、異例の暖かい天候で六ヶ所村を判断してはいけないのだろう。それでも、初めて六ヶ所村に足を運んでみたのと、一度も行ったことがないのとでは大違いだ。

この原子燃料サイクル施設を一目見て、「四角い無機的な形と白い壁に青と緑のラインのみという余白の美」を絶賛した生徒がいた。福島から来た高校2年生の彼女は“工場萌え”で、美術部に所属するアーティストなのだ。原発の是非とは別次元で、人間が作ったモノに「なんという素晴らしいデザイン!」と感動できるのも、初めて現地に来てみたからこそ。第一印象は初回にしか得られない。

この再処理施設やガラス固化体をこれからどうするのか? 若者たちはどう考えるだろうか?(続く)

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