よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

中学生サミット2018その④ NUMOに質問

地層処分問題をサイエンティフィックにダイアローグ」と謳うこの「中学生サミット」のプログラムには、毎回、NUMOの担当者から地層処分の基本について話を聞くというセッションが含まれている。

NUMOというのは、Nuclear Waste Management Organization of Japanの頭文字で、通称「ニューモ」。日本語名は原子力発電環境整備機構という、一見「地層処分」とつながらないような名称だが、原子力発電により発生する使用済燃料を再処理する過程で発生する高レベル放射性廃棄物(=ガラス固化体)の最終処分(地層処分)事業を行う日本の事業体で、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」に基づいて作られた認可法人である。管轄は経済産業省

NUMO広報部の実松由紀さんは、冒頭、「NUMOは法律に基づいて作られた認可法人ですので、何をするにも国の認可が必要です。運営資金は、電気事業者からの拠出金、つまり元はと言えば一般国民が支払っている電気料金で賄われています」と説明した。

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 続いて、「高レベル放射性廃棄物ってなんだろう?」「高レベル放射性廃棄物はどうやって処分するの?」「地層処分って本当に安全なの?」「地層処分はどのように進めるの?」といった地層処分の基本について、資料を見ながら粛々たるレクチャーが30分ほど。その内容がこれまでの中学生サミットや以前に個人的に参加してみたNUMOの(大人向け)「対話型説明会」とほぼ同じだったのは、「何をするにも国の認可が必要」な認可法人の担当者として説明するなら当然のことではあった。

しかし、違っていたのは生徒たちから活発な質問が出たこと。今回は過去2回の「中学生サミット」と較べてもはるかに活発だった。なぜだろう?

  • メンバーの意識が高かったから?
  • 抵抗なく人にものを聞ける性格の生徒が多かったから?
  • 直前に身体を動かすゲーム(六ヶ所バスケット)をやったおかげで会場の雰囲気がいい感じに温まっていたから?
  • 今回はNUMOの担当者が「クールな専門家のおじさん」でなくて、「気さくなお姉さんのような、学校の先生のような親しみやすいキャラ」だったから?
  • 途中で澤田先生が独特のツッコミと補足説明を入れて座をかき回す感じに、「あ、それぐらいのこともみんなわかってないなら、こんなことも聞いていいかな」と思えたから?

理由はいろいろ考えられるが、

「高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体のことっていう説明でしたが、なぜ、ガラスでなければならないんですか?」

「科学的特性マップの中の、この四角いマークは何でしょうか?」

といった素朴な質問から、実松さんをたじたじとさせる厳しい問いかけまで、生徒たちの質問ぶりに感心した。

「核のごみ」の最終処分場をどこにするのかをどうやって決めていくのかについて、NUMOからの説明では・・・今は、公募制と言って、各自治体の首長が(最終処分場を受け容れると)手を挙げてくれたら、文献調査(その地域が最終処分場に適しているかどうか、過去の学術論文その他の文献資料によって地質や活断層などの特性を調査すること)を開始することができる。もう一つ、国から、ある程度、国民の理解が得られてから、『ここでやらせてください』という申し入れをするという方法も2007年からできるようになった・・・ということだった。

(註)2015年の閣議決定では、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定について議論がなされた。基本方針の改定のポイントは下記の通り。
  ・現世代の責任と将来世代の選択可能性
  ・全国的な国民理解、地域理解の醸成
  ・国が前面に立った取り組み
  ・事業に貢献する地域に対する支援
  ・推進体制の改善等

早速、生徒たちから質問が出るわ出るわ。

*****

Q:最終処分場の場所は公募制で決めるということで、各自治体が手を挙げるのを受け身の形で待つということですが、候補が挙がってからも時間がかかるわけじゃないですか。そうすると、ガラス固化体を六ヶ所村に一時的にでなく、ずーっと期限なく置いちゃうことになるんでしょうか?(東京;高2S)

NUMO:とてもいい質問ですね。青森県六ヶ所村とは、30年~50年、最長でも50年経ったら、どこかに必ず搬出するという約束の下でガラス固化体を置かせていただいています。最初に六ヶ所村にガラス固化体が入ってきたのが1995年でしたので、2045年には出さなければならないということになっています。文献調査から始まって時間がかかることを考えると急がなければならないのですが、とは言え、無理やり進めることはしないというのが国の方針であり、NUMOもその方針に従ってやっています。なかなかはっきりと答えるのが難しい問題ではありますね。

Q:そうしたら、六ヶ所村を裏切っちゃうというか・・約束はあるけど、出せないわけじゃないですか、実際。(東京;高2S)

NUMO:出せないと、まだ決まったわけではありませんので。出せなかった場合というのは考えていないんです、はい。もう、どうにかして決めたいと。

Q:2045年に出さなきゃいけないということは・・まず場所が決まってから調査に20年かかるわけですから2025年には決まってなきゃいけないじゃないですか。でも、建設にも10年かかるんだったら本当は2015年に場所が決まってないといけないというところだと思うんです。もし、このまま行った場合はどうするんですか?六ヶ所村に置いておくのか、それとも、どこに移すのかわからないですけど、どこかに移す当てというのか、どういう計画ですか?(東京;高2K)

NUMO:なかなか難しい鋭いご質問ですけど、実際には、決まらなかったらということは想定はされていないんですよ。もう、どうにかして決めるという気持ちで、国もNUMOもやっているので、何度も同じことの繰り返しになってしまいますが・・ただ、青森県との約束は遵守していくということで考えています。

澤田:今の質問は「もうタイムアウトじゃないか」ということを言ってるわけですよね?

NUMO:はい・・おっしゃっていることは重々わかります(苦しそうな実松さん)。でも、無理やりにはやれないというのが国の考え方ですね。

Q:50年間の約束で、2045年までに間に合わなかった場合の対処法を考えていないというなんですけど、今後それを考えていく予定はあるんですか?(京都;中2U)

NUMO:そうですね。もちろん、考えていくと思いますが、国と相談しながらになりますね。基本的には国の方針に従っていくということになるので、そこは協力してやっていくということになります。もちろん、電気事業者も含めてですけど。

Q:自治体から手が挙がるのを待つということですが、何年まで待つかという期間は決まっているのですか?(福島;高2?)

NUMO:手が挙がるのを待つ期間というのは、とくには決まっていないです。いつでも受け付けています。

Q:手が挙がるのを待っている期間は何もできないというか、国から『ここにお願いします』みたいのもないんですか?(福島;高2?)

NUMO:あの、はっきりといつまでにというのは明確には出されていませんが、それは今行っている説明会や理解活動の広がりの状況によって、国が申し入れをするというタイミングがいつかはあると思っています。ただ、それがいつかということは今は明言されてないですね。

Q:期限の話に戻るんですけど、先ほどの質問への答えとして、もし2045年までに決まらなかったらというのをまだ考えていない、そこは国に従うしかないとおっしゃっていたんですけど、まだ考えていない、まだ考えていない、でも、いつかは考えるんじゃないかなみたいなちょっと逃げた言い方をされているんですけど、それって、もし、国民の多数から『早く考えたほうがいいんじゃないか』っていう意見が出れば、『いつか』じゃなくて『今考える』になるものなんですかね?(福島;高1H)

NUMO:そうですね。どういう方法が最短かというのはなかなか答えが出ない問題だとは思うのですが、やっぱり、国民の意見がどこに反映されるかと言うと、政治家、つまり、議員さんなど声が上がってくれば、もっともっと盛り上がってくるとは思います。すみません。答えになっていないかもしれないですが、声を上げていただかないと動けない部分も確かにあります。

*****

このように、最終処分場がなかなか決まらない現状について疑問を呈する質問が相次いだ。実松さんがなんとか答えても、それを受けてさらに質問が出て、生徒たちが代わる代わるNUMOに畳みかけるような展開だった。昨日実際に六ヶ所村に行ってきたから、なおさら実感があるのだと思うが、六ヶ所村との約束である2045年までという期限を守れそうにないことに驚き呆れるのも無理はない。「なんで今まで先送りしていたのか?大人たちは一体何をやっている?!」と責められているようでいたたまれない。

このほかにも、そもそも地層処分で大丈夫なのかを問う質問や、原発再稼働との絡みや、海外の例まで、さまざまな質問が出た。

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Q:最終処分のルールみたいなものはどういう人たちがどういう過程で詰めていっているんですか?

Q:(そういうことを検討する)ワーキンググループの中には地層処分に慎重な意見の専門家も入っているのですか?

Q:地層処分が)本当に安全ならどこに埋めてもいいじゃないですか。ということで、「大丈夫です」っていう説明をちゃんとすれば、ある程度、国が指定して「ここに埋めよう」っていうのを決めてもいいんじゃないかと思うんですけど?

Q:原発がほとんど動いていない状況でも既に使用済み核燃料がたまっているということなんですけど、今は最終処分場が決まっていなくてうまく行ってないじゃないですか。その上で、また原発を再稼働すると、また『核のごみ』がたまっていくということになるじゃないですか。その地層処分の説明と、原発を再稼働するとごみがでるという説明はセットなんですか?

Q:フィンランドでは最終処分場を作っている段階に入っているんですよね?なぜ、フィンランドでは決めることができたのですか?

Q:いざ(手を挙げると)決定するのは自治体ということですが、自治体にはどういう働きかけをしているのですか?

Q:六ヶ所村では、ガラス固化体が9段タテに積み重ねられてその上に厚さ2メートルのコンクリートと蓋がありました。そういう保管で大丈夫なら、どうして地下深くに埋めないといけないのですか?

Q:地下300メートルの天然バリアで(放射性廃棄物を)閉じ込めるということですが、一度穴を開けて掘ると、天然バリアが損なわれるのではありませんか?

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うーん、なかなかいい質問だ。これらの質問に対するNUMOの回答は割愛するが、以前に、私が参加したNUMOの対話型説明会では、こんなにフランクな質問が出なかった。受付で「関心テーマ」を申告し、テーマごとにグループ分けされ、聞きたいことを紙にメモして、その質問に対しNUMOの担当者が回答して終わりという感じで、とても「対話」と呼べるものではなかった。それはNUMOだけのせいではなく、とかく大人は、「今さらこんなことは聞けない」と忖度して質問を控えたり、そもそも地層処分に否定的な立場から攻撃的な質問ばかりしたり、いずれにしても問題解決にはつながらない。若い世代は、これから50年60年、この最終処分の問題と向き合わざるを得ないことを今日の説明を聞いただけでもわかってしまったことだろう。反対だけしていても何の解決にもならないし、ましてや無知・無関心でいるなんて?!今回の生徒たちの厳しい質問は、NUMOのみならず、自分たち大人世代全般に向けられているように聞こえた。

最後に、NUMOの広報活動についての質問が。

「こういうNUMOの活動がほとんど知られていないと思いますが、もっと多くの人に知ってもらうようなことをしておられますか?」

生徒たちが知らないのは無理もないが、大人でもいまだに知らない人が多いのではないだろうか。どうしたらいい? その話し合いは翌日にということで、青森からの移動に始まった長い一日は終了した。

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会場を後にすると、お台場から対岸にかけて、高層ビル群の灯りが煌々と輝いていた。大電力消費地・東京の夜景である。(続く)