よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

中学生サミット2018その⑤ 自分が自治体の首長だったら?

青森行きを敢行した今回の中学生サミットは例年より1日長い2泊3日の行程であった。さて、最終日。

初日の六ヶ所村での原子燃料サイクル施設の見学、2日目の東京でのNUMO(原子力発電環境整備機構)のレクチャーを踏まえて、3日目は生徒たちによる対話セッションが行われた。ここまでの旅を共にした全国6校29名の中高生たちは、3日目ともなると他校の生徒ともだいぶ打ち解けてきた様子。

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椅子を並べて大きな輪になって座り、互いの意見を出し合うセッションはなかなか盛り上がった。原発立地地域と電力消費地を含め、各地から例年より多人数かつ多様なメンバーが参加していた中には国際色豊かな家庭の生徒たちもいて、さっと手を上げる彼らの積極性は他の生徒たちにも発言を促す刺激になったようだ。

 毎回のサミットで強調されるのは、「生徒たちが主役」ということ。だから、対話セッションの進行も生徒たちにお任せで、大人のコントロールによる予定調和はない。司会も生徒、発言するのも生徒という話し合いに、大人たちはあくまでもオブザーバーとして耳を傾ける。ひょっとすると、通りいっぺんのアイデアしか出なくて議論が低調な場面ではもどかしく感じる人もいたかもしれない。実際、「地層処分やNUMOさんのことをもっと一般の人に知ってもらうためにSNSなども使って発信しよう」という内容の発言が続いたあたりでは、軽い失望の声が大人の間から漏れ聞こえてきた。しかし、そこで出しゃばって話し合いの流れを誘導することなく、大人たちは生徒たちの様子を見守り続けたのであった。

 生徒たちの多くは今回のサミットに参加して初めてNUMOという名前を知った。きっと、友達や家族だってそんな名前を知らない人が多いだろう。そんなことでいいのか?と生徒たちは危機感を持ったようだ。NUMOが開催している対話型説明会などに自分から参加するのは、ある程度、地層処分のことを知っている人たちだけだ。「そもそもNUMOの存在自体知らない人が多い」「興味のない人たちに知ってもらう必要がある」「そのためにはどうしたらいいのか?」というところから話し合いが始まったのは自然なことだった。

 

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司会:自分自身は、この問題になぜ興味を持ってサミットに参加しようと思いましたか?

  • 中1の時に学校で「東日本大震災に学ぶ」という授業があって福島の状況に関心を持ち、周りの仲間と研究を始めた。(東京;高2Kさん)
  • 原子力発電所の体験施設で原子力って面白そうだなと興味を持った。(島根;中1B君)
  • 兄が東京電力で働いていて興味を持つようになった。(新潟;中2K君)
  • 小5の頃から、お父さんから原発の話をいろいろ聞いて興味を持つようになった(新潟;中2Kさん)
  • 学校でサミットへの参加募集をしていて、参加するうちに興味を持つようになり、話している内容もだんだんわかるようになってきた。(京都;中2Uさん)
  • おばあちゃんの故郷が福島で、いろいろ話してくれたので、もっと詳しく知りたいと思ってサミットに参加した。(京都;中2Iさん)

地層処分や最終処分場についてNUMOが行っている理解促進活動を知らない人が多いので、まずは、どうすればもっと知ってもらえるかをみんなで考えた。「外部の説明会に自分から出向くという形だけでなく、学校などにNUMOに来てもらう」「テレビのCMで広める」「ポスターを作って中吊り広告を出す」「文化祭で発表する」「学校からの配布物を作る」といった意見のほか、「SNSで情報発信する」という提案が多かったのがイマドキの若い世代らしかったが、中にはこんな面白いアイデアもあった。

  • ガラス固化体や再処理施設の写真集を作る。廃墟マニアや工場萌えする人って結構いっぱいいると思う。写真集を見ることによって、現状に興味を持ってもらえるのではないか(福島;高2Oさん)
  • ガラス固化体にしぼって、多重バリアの安全性などをアピールすれば、バリア好きなゲームファンは結構そそられると思う。(新潟;中2K君)

SNSか・・・まぁそうだけど。発信の方法に終始するのかと危ぶんでいたところ、発信の中身を問う本質的な質問が司会者から発せられた。

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司会:それでは何を発信しますか? たとえば、家族にこのサミットのことを共有する時に何を話しますか?

  • 地面の中に危ないものがあるのは不安だと思う。その不安を打ち消すことが核燃料や原発について賛成するための鍵になるのかなと思う。(東京;中2Sさん)
  • 地下300メートルと言われてもあまりピンとこない。300メートルがどれぐらい深いのかを知ってもらうことで少しは安心してもらえるのかなと思う。(東京;中1K君)
  • 地層処分が最先端の技術、今いちばん新しいやり方で、しっかり安全性が伝わればよいと思う。(新潟;中2K君)
  • 安心の線引きには個人差があると思う。どのぐらいの線量で人体にどういう影響があるのか知らない人が多い。これぐらいの線量を浴びたらこうなるという放射線の知識をもっと知ってもらう。(福島;高2Sさん)

そして、このあたりから話が面白くなってきた。生徒たちが最終処分場の問題を自分ごととして考え始めたのだ。

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前日のNUMOからの説明の中で、公募制や国による申し入れなどの説明があったが、これまでのところ、正式に手を挙げるところまで行った自治体は皆無だ。処分場の選定は長年ペンディングで、一向に決まらないまま、2045年には六ヶ所村から高レベル放射性廃棄物を運び出すべき期限がやってくる。ここまでダラダラと問題を先送りしてきた大人社会への強い不信感と危機感が、昨日の生徒たちの質問からも感じられた。そんな雰囲気を受けてか、司会役の生徒たちは次のように問いかけた。

司会:自分が自治体の首長だったら、最終処分場の受け入れに賛成ですか?反対ですか?自分が住んでいる地域の市長とか町長になったつもりで言ってください。

中2G君:受け入れに反対。経済は良くなるが、事故が起こった時の対応や対策を含めると、被害を出さないためには初めから(最終処分場を)建てないほうが地域も助かると思う。(愛知県豊田市

中1M君:受け入れに賛成。(地元に)茶畑がたくさんあるが、(処分場に適しているか調査することで)市民がその土地を知ることができて、茶畑以外にも新しいことが発見できそう。(埼玉県所沢市

司会:ちなみに反対する人がいたらどうしますか?

中1M君:たくさんの視点から地域を見て、伝え方を工夫すれば反対の人を説得できると思います。

中1A君:受け入れに反対。東京は経済の中心であり、最終処分場を置くのはリスクゼロではないから。東京はただでさえ自然が少ないのに、最終処分場を受け容れるとその自然を壊して作ることになるから。(東京都練馬区

司会:じゃあ、どうすればいいと思いますか?どこも受け入れないのが現状なんですけど。

中1A君:できるだけ最適な場所を見つけて伝え方を工夫し、最終処分場のことをよく説得したらいいと思います。

中1K君:受け入れに反対。米軍基地があるが特別いいことはない。そういう施設を置いても特別いいことはないと思う。単純にイヤだなと思う。(神奈川県相模原市

司会:それでは、どこに処分したらいいと思いますか?

中1K君:海外に委託する。無理してまで日本でやらなくてもいいのではないか。

中2K君:受け入れに反対原発があるが稼働していない状態。そこへ、最終処分場まで受け入れるとなると、問題が2つになる。原発だけならそれに集中すればいいが、もう一つ大きな問題が出てきたら住んでいる人たちの不満が増える。(新潟県柏崎市

中2A君:受け入れに賛成。地下300メートルは深い。科学的にきちんと放射性物質が漏れないということが証明されているから。(愛知県豊田市

司会:住民からの反対にはどう対応しますか?

中2A君:市長になる選挙の時に処分場のことを公約に掲げます。それで市長に就任したからには、市民の賛成を得ていることになります。ゼロリスクはないので、不安にはキリがない。

中2Kさん:受け入れに賛成。日本は先進国で、最新の技術があるので安心できるし、(地層処分の)安全性もわかっているので、ほかにやる所がないなら自分たちが声を上げなければいけないと思う。(新潟県柏崎市

中2Uさん:受け入れに反対。京都は歴史的建造物が多いので、最終処分場ができると海外からの視線が悪くなり、観光価値が下がるから。(京都府京都市

中2Iさん:受け入れに反対。京都には歴史的なものが埋まっていて、建物を建てるために掘る時にも調査をしなければならない。反対じゃなくて、できないと思う。(京都府京都市

高2Sさん:福島県原発安全神話を信じていて今回の事故が起きたので、メリットとデメリットの両面を伝えて、住民の意見を聞くのが大事だと思う。(福島県二本松市

高3Mさん:原発があり、一度事故をやっているので、ほかの地域よりは地層処分の説明会を聞こうとする基盤はあると思う。(福島県二本松市

中1K君:受け入れに賛成。原発があるので、まとめてそこに処分場を置けば、島根の知名度が上がるし、経済的にもよいことがある。(島根県松江市

司会:最終処分場とほかのごみ処分場の何がそんなに違うのでしょうか?反対する人は絶対にイヤなのか?(こうであれば賛成してもよいという)何か妥協点はありますか?

高2Iさん:お金が出るなら賛成する人は増えると思う。自分も「反対」だけれど、住みやすい町になってほしいので、利点のほうが多ければ「賛成」に変わるかもしれない。(福島県二本松市

中2S君:(処分場を)原発と一緒に置けば、ほかのところに置かなくていい。ニュースになれば玄海町のことが話題になる。(佐賀県玄海町

中2K君:妥協点としては、処分場を受け容れたことによって、東京みたいに人が集まるような大きな施設ができること。人が入ってきてくれるなら妥協はできる。(新潟県柏崎市

中2Uさん:(処分場を作るために)地下を掘るのなら、地下鉄の路線をもっと増やしてほしい。(京都府京都市

中2T君:受け入れに反対で、妥協点なし。京都は他に較べて経済的にも豊かだし、処分場を置いたところでメリットがない。むしろ、東京に置いて都内の人口を減らしてはどうか。(京都府京都市

司会:このままでは六ヶ所村にある核のごみ(ガラス固化体)を50年以上置いておくことになってしまいます。ごみを出した責任をどうやって果たしていけるのでしょうか?

中2Iさん:ごみを出して負担をかけている地域(東京など)は電気料金を高くする。(京都府京都市

中2N君:(核のごみを)埋めるとお金を多くもらえるのはいい。絶対に安全であるなら、地震が起きても安全なら受け入れに賛成する。(佐賀県玄海町

中2O君:受け入れに反対。妥協点ない。大都市圏は、経済的に国を支えている面が多いと思う。核のごみを埋めたらリスクは必ずある。経済的に発展しているところで事故が起きたら国を支えきれない。だから最終処分場は過疎地域に置いたほうがいいのではないかと思う。(京都府京都市

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「自分が首長だったら?」という問いは、地域住民としての意見以上に、リーダーとしての責任を併せて問う絶妙な想定だった。立地地域と電力消費地とでは考え方が異なることは予想されたが、同じ地域でも賛成と反対の両方の意見がある。その中で、京都の生徒たちの「反対」は突出していた。「京都(だけ)は処分場にすべきでない」という強い思いがにじむ。

最後に、 「最終処分場を作るのは簡単じゃないですね。次のサミットまでに何ができるかそれぞれ考えましょう。」という司会の投げかけで、これから自分がやろうと思うことを順に話していった。一人ひとりが語る姿からは、今回のサミットでの体験がいかに貴重なものかを感じ、そこに参加できた自分たちの使命感のような気持ちが芽生えているのが伝わってきた。

  • このように学べる機会をもらったからには、家族や友達など、周りの人に伝えていくのが使命だと思う。
  • どんな土地が最終処分場に適しているのかを、一年通して、じっくり調べていきたいと思う。
  • 核のごみについて、大まかなことしかわかっていないので、もっと調べて自分の考えをより深めていきたいと思う。
  • 作文を書いて、さまざまな人に発信したい。新聞にも投稿したい。
  • 原発が近くにあることをプラスにつなげて地域のことを考えたい。

 

話し合いは参加メンバーが作り上げるもの。そして、メンバーからいかに意見を引き出せるかは司会、即ちファシリテーター次第でもある。今回のファシリテーター役は高校生5人。彼らの絶妙な問いかけと、発言者に対する適切なツッコミのおかげで、各地から参加した生徒たちの多様な意見を聞くことができた。

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以下は、ファシリテーターたちの声。

高1Hさん:ファシリテーターって重要だと思った。議論を面白くするのもファシリテーター。言えなかった意見を引き出せるように、どうやったらみなさんの意見を引き出したり議論を深めたりできるのかを考えたり実践したりしていきたい。(福島)

高2Kさん:後輩とも情報を共有して、学校の中でもつながっていくように、興味を持つ人が増えるようにしたい。(東京)

高2S君:新聞を読んで自分の考えを深め、18歳になれば選挙権が得られるので、投票という形で政治に参加できるようになりたい。(東京)

高2K君:原発のこと、最終処分のことを知る前と知った後では、見る世界が違ってくる。それが分かった上での一年間を過ごしたい。毎回、基本からでは進まないので、一年間で情報を蓄積して、知識を深掘りできるようにしたい。(東京)

高3Mさん:地層処分のポスターを作るっていうのを部活でやりたい。地元にできたカフェで何かできないか、地域との結びつきで何かできないかなあ。来年ここに来てくれる後輩をとっつかまえてくるんで、がんばりましょう。今日はありがとうございました。(東京)

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同じような意見の持ち主が群れを成し、異なる意見の群れとは、顔を合わすことさえほとんどないような分断された大人社会に暗澹たる思いだが、自分も人のことは言えない。「自分の意見だけが正しい」と思い込んでいるのではないか?「異なる意見」とどのように話を噛み合わせ、いたずらに相手を責めたてず、難しい問題に対し、共に解決の糸口を見出していけるのだろうか?

この日の生徒たちの話し合いは、別になんらかの結論を出すのが目的ではなかったが、地元に最終処分場を誘致することについて、「賛成」「反対」の意見を率直に出し合い、さまざまな考え方があることを互いに認め合う姿勢が、その場にフレンドリーな雰囲気を醸し出していた。こういう雰囲気が大人の話し合いにはめったにない。なぜだろう?

「この会は、みなさんが主役ですから、みなさんの要望を周りの大人は力添えします」と澤田先生はその場を締めくくったが、力添えする大人のほうがむしろ学ぶべき「中学生サミット」であった。(完)

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