よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

東京電力を訪ねる 〜2020京都発ふくしま「学宿」その6

新型コロナ禍中の4月下旬。遅々として進まないこのレポートだが、こうしている間にも、今のところ電力が安定供給されている。しかし、東日本大震災後の原発停止で今や日本の発電燃料の4割を占める液化天然ガスLNG)を全て輸入に頼っている脆弱さについて、4月24日の日経新聞にも記事が出ている。LNGは長期保存に向かないため、備蓄量は2週間分にすぎないという。

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エネルギー供給の危うさと停電リスクにも不安を感じつつ、いま現場で粛々と任務に当たる方々に感謝するほかない。

2ヶ月前が既に大昔のように感じられるが・・・

今回の「学宿」道中、東京から郡山までの新幹線の車窓から見える高圧電線の鉄塔が気になった。何度となく福島を訪ね、福島第一原子力発電所の構内にも入ったことがあるというのに、今ごろ初めて気がつくのもどうかしているが、見ているようで見えていないものだ。また、通り過ぎるとすぐに忘れる。このとき初めて、田んぼのど真ん中に立つ巨大な鉄塔に驚いた。一体いくつあるのだろう?あれだけの鉄塔を何本も建てて電線を引いてくるのは、なんと気の遠くなるようなプロジェクトだったことだろう。今さらながら。

 「学宿」初日に行ったコミュタン福島から浜通りに向かう磐越自動車道からも山中の鉄塔がいくつも見えた。

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首都圏の電力がどこから、どのように供給されているのか、詳細は調べ切れていないが、日々このような高圧電線で運ばれてくる電気に支えられているのだ。原発が稼働していた頃はその割合がもっと高かったのだろう。

 

2月23日朝、楢葉町の宿を出発したバスは富岡町内の東京電力廃炉資料館に向かった。中学生を対象にしたスタディツアーのコースには福島原子力発電所構内の見学は含まれていないが、廃炉資料館を見学し、さらに新福島変電所で東京電力の社員の方々と対話するというのが今回のハイライトだと野ヶ山先生は言っていた。

廃炉資料館は2018年11月30日にオープンした施設。映像やジオラマを通じて、事故の記憶と記録を残し、二度とこのような事故を起こさないための反省と教訓を伝承するとともに、廃炉の全容と最新の状況を説明する。

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朝一番でAFWの吉川さんの話を聴き、「・・・原発のことを考えるんじゃないんだよ。この原発で起きた問題とか課題から自分を省みて生まれたこの気持ちみたいなところを共有すればいいんだね」という言葉に納得した後だっただけに、私にとっては二度目の訪問となる廃炉資料館で、技術的な詳細を展示物から読み取る気力が今一つ湧いてこなかったのが我ながら残念だったが、生徒たちは限られた時間内で熱心に見学していた。その意欲と好奇心に感心する。

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それにしてもこの建物の外観。元々は福島第二原子力発電所のPR施設「エネルギー館」だった建物で、浜通り国道6号線を通るたびに「何だろうか?」と目を引くデザインである。アインシュタインキュリー夫人エジソンの生家をモデルとして並べたそうだ。

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次に向かった新福島変電所の外観はもっと度肝を抜くものであった。山中に突然、巨大なジャングルジムをいくつも合わせたような網状の鉄の構造物が現れる。バス内からの写真撮影はOKだったので、座席から身をよじらせて撮ったスマホの中の写真を眺めて思い出しているが、セキュリティ上、外部での掲載はNGと言われた。所在地も詳細は出ていないが、富岡町から川内村に向かう途中かと思われる某所。付近の遊休地のあちこちに設置されたおびただしい太陽光パネルも目につく。

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震災前は、福島第一、第二原発でつくった電気を首都圏に送る変電所だった新福島変電所だが、こういった再生可能エネルギー由来の電気を送る機能を新たに担って稼働を始めたという最近の記事が出ていた。この巨大な変電所があの送電線の起点にあるのだ。

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変電所内の会議室で、東京電力の担当者からのレクチャーを聴き、生徒たちが質問するというセッションが行われた。

全体で1時間という限られた時間では、どうしても駆け足の説明になる。

まずは、福島復興本社の取り組みについて、東京電力福島復興本社の坂本裕之部長氏より説明。

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福島復興への責任を果たすために、2013年1月1日、福島復興本社が設立された。県内すべての事業所の復興関連業務を統括している。賠償、除染、復興推進等を迅速かつ一元的に意思決定し、福島県民のニーズにきめ細やかに対応している。当初はJヴィレッジ内に事務所があったが、2016年3月に富岡町浜通り電力所に移転、2020年度を目途に双葉町中野地区に移転予定である。県内の他の事業所も含め、合計4,000人の体制。

設立以来、地域の伝統行事への協力、清掃・片づけ、除草作業、見回り活動などの復興推進活動に、延べ約50万人の社員が参加(東電全社員約3.3万人)、除染活動には社員延べ約38万人が対応してきた。

2019年末時点で9兆円を超えている原子力損害賠償はなおも現在進行中である。

また、風評被害払拭のために、福島の農産物を食べてもらえるように、まずは自分たちが食べることから購買増強・流通促進活動、情報発信、共同事業を展開する中で、2014年11月に設立した「ふくしま応援企業ネットワーク」には2020年2月現在で137社が参加している・・・ここまでで14分ほど。

次に、廃炉について、東京電力福島復興本社福島広報部リスクコミュニケーター兼復興推進室技術担当の櫛田英則氏が説明。

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2011年3月11日における地震および津波の状況と設備の被害状況。福島第一原発(1F)では地震や浸水被害を及ぼした津波により外部電源や非常用電源が使用不可となったが、津波の浸水域が限定的だった福島第二原発では電源が使えたため、核分裂停止後の燃料の崩壊熱を冷却することができた。

1Fの1~4号機の状況、港湾内外の放射性物質濃度の変化、汚染水と原子炉循環冷却など、詳細は何度聞いても理解が追いつかないが、ざっくり言って、1Fの今の課題は、以下の3つである。

  1. 使用済み燃料を取り出し共用プールに移動すること
  2. デブリを取り出すこと
  3. 汚染水(処理水)対策

1.については、2014年12月に4号機の燃料取り出しは完了。2019年4月から3号機の燃料取り出しが始まり、2020年2月時点で566本の内84本の取り出しと移動が完了。

2.については、2021年から2号機で取り出し開始予定で、そのためにイギリスで製作された機械の動作確認中である。

3.については、①他各種除去設備(ALPS)による汚染水浄化などにより汚染源を取り除く、②地下水バイパスやサブドレン(建屋近くの井戸)による地下水くみ上げ、凍土方式の陸側遮水壁の設置、敷地舗装などにより汚染源に水を近づけない、③海側遮水壁の設置、地盤改良、溶接型タンクへのリプレース等により汚染水を漏らさない、などの重層的な汚染水対策により汚染水発生量の低減を図っている。2020年1月時点で約1000基のタンクに約118万トン(ストロンチウム処理水を含む)を保管しており、2020年末までに137万トンまで貯められるようタンクを確保する計画である。

このほか、労働環境の改善と廃炉の中長期ロードマップを紹介。以上で18分。

生徒たちは、大人向けと同様のパワポのプリントアウトを配布され、手元と前方のスライドを見ながら、とにもかくにも話を聴いている。合わせて30分ほどのさらっとしたレクチャーでいっぺんに理解するのは至難の業だと思うが、「学宿」に応募した生徒たちは、事前にかなり予習してきているようだし、初めて「東電の人」から直接話を聴くという体験にはそれなりのインパクトがある。

 

ここから質疑応答。

 

Q:風評被害への東京電力の取り組みは関東圏にとどまっており、このままでは全国規模に広がらないのではないでしょうか?(3年T君)

東電:風評被害への取り組みは、当然、県や国レベルでも努力しており、福島県知事は海外にも発信しています。東電としては、受け持ち区域である首都圏での取り組みが中心になっていますが、全国的な取り組みが行われています。(坂本氏)

 

Q:HPを使って発信するというお話がありました。東京電力のHPを見ない人が多いと思いますが、見てもらうための対策はありますか?(2年女子)

東電:なかなか難しいところですが、最近、LINEで「ふくしま応援隊」への友だち登録を勧誘し現在100万人に拡大しています。LINEを活用して日々情報発信しています。TVコマーシャルなども使って一般視聴者にリーチしたいのですが、今はなかなかできません。今日のみなさんのような県外からの見学者の口コミにも頼っています。ただ、知っていただきたいのは、毎日朝晩、福島県庁の記者クラブで状況を伝えており、それはマスメディアに取材していただけること。また、週に2回、福島第一原発でも記者会見を行い、情報をアップデートしてメディアから発信してもらっています。そうは言いながら、なかなかHPを見てもらえないのはおっしゃる通りです。SNS等を使いながら、TEPCO速報というプッシュ型の配信を行っており、なんとかみなさんに広く情報が行き渡るようにしたいですね。(坂本氏。また櫛田氏が東京電力のHPをタブレットで紹介)

 

Q:なぜ、京都のような遠く離れた所から来た中学生にこんなにいろいろな情報を教えてくれるのですか?(3年女子)

東電:ありがとうございます。わたくし共としましては、どこにお住まいであろうと関わりなく、こちらのほうに関心を持ってもらえる人には等しくお話をさせていただきたいと考えております。全国のみなさまにご迷惑をかけており、もしかしたらみなさんの近くにも福島から避難しておられる人がいるかもしれません。事実をしっかりお伝えしたい。来ていただけることに感謝しています。(坂本氏)

広く、とくに若い人たちに来ていただいて、実際にこうやってお話させていただいて、感じていただきたい。実際に見ていただいたことを持ち帰って、みなさんの口から話していただくのがいちばん風評払拭に役立つと思っていますので、ご協力をお願いしたいと思います。(櫛田氏)

 

Q:先ほどの質問の中で、原発の現状を周知する手段としてのTVコマーシャルが以前に較べて満足に行われていないということでしたが、その原因・理由は何にあるとお考えですか?(3年K君)

東電:原子力発電所に関するコマーシャルということで言うと、いま柏崎刈羽原子力発電所の安全対策などについて、新潟県ではTV放映しています。これはやはり県民のみなさんにしっかりと今どんな状況にあるのか伝えるために地域限定でおこなっています。私たちの会社は原発事故後、半国有の状態です。本来であれば潰れている会社ですが、福島への責任を果たしていくということから会社の存続が認められているという状況で、広告宣伝にお金がかけられないというのは事実であります。(坂本氏)

 

Q:中長期ロードマップについて、冷温停止してからどのようになっていくのですか?(3年女子)

東電:冷温停止の状態は達成していますので、そのあとの部分の詳細ということですね。まず、冷温停止というのは、燃料が崩壊熱で発熱していますので冷却をするわけですが、その冷却水の温度が100℃以下になることです。つまり、沸騰はしていない、ちゃんと冷却水が回っているということを冷温停止と言います。そのあとは、燃料の取り出しを開始することになります。先ほど言った、使用済み燃料の燃料プールからの取り出し開始とか、デブリの取り出しの開始までということです。そのあとは、着々とデブリを全部回収できるように取り組んでいくという形になりますが、1Fの最終形態はまだ決まっていないのです。施設として形のある状態に残すのか、それとも更地にするという話になるのかについては、まだ決まっていません。今後の最終的な形は、やはり福島県の地元のみなさんと話し合いながら決めていくということです。いちばんリスクが高い部分は、やはり燃料の取り出しです。

原子力災害特別措置法という法律があり、その中でいま、1Fは運用されていることになります。通常は、原子力発電所というのは、電気事業法と原子炉等規制法という2つの法律でいろいろやっていなくちゃいけないんですけど、1Fの場合はこういった事故が起きて、最終的な所は原災法の中で運用されているということです。ちなみに、福島第二の場合は、2011年12月時点で、原災法の適用から外れて、電気事業法と原子炉等規制法が適用されています。(櫛田氏)

 

Q:今日行った廃炉資料館で、最終的には原子力建屋を解体する、方法は検討中と書いてあるのを見たんですけど、30年後40年後の方法がわからないんでしょうか?(3年M君)

東電:確かに廃炉資料館には廃炉の課題の一つとして、建物の解体という話が出ていますが、基本的に、原子力発電所の廃止(廃炉)というのは、だいたい30~40年というのはどこの電力会社でも同じです。まず、燃料を移動して、あとは材料関係を除染をして、放射線レベルが下がる(減衰)のを待って、除染をして、影響のない範囲になった時に建物を解体するということで、それらをすべてひっくるめて30~40年ということです。1Fの場合、燃料デブリが、やはりリスク的には高く、目標としては30~40年を目指していますが、まだ具体的な技術開発も進めていく必要があり、なかなかそこは明確に「絶対できます」とは言えないというところです。 で、デブリが取り出せれば、建物自体にはリスクはなくなるわけなので、通常のビル解体と同じような形で進めていくことになります。まだ明確には決まっていないですね。ここはまだ地域の方々とのコミュニケーションが必要です。(櫛田氏)

 

Q:汚染水の処分方法について、地元の方々との話し合いが必要ということですが、ほかの地域の人たちの理解はどのようにしていかれるのですか?(2年女子)

東電:はい。これは東京電力が「この水は安全です。もう出させてもらう。いいですか?」と言っても誰も信用してくれません。基本的には、国のほうできちんと方針を固めていただくということです。つい先月、1月31日に汚染水関係のALPS小委員会がありました。その中で、この1Fにある汚染水の処理が議論されました。やはり、管理のしやすさから見て海洋放出するか、または、蒸発させる大気放出という手法がよいのではないかというような結論を出していただきました。その中で風評被害をどうするかについても議論しなさいということになっていて、どのように処分するにしても、やはり、風評被害は出てしまう。だから、基本的にその対策関連については、ちゃんと国が責任を持って対応しなさいということで小委員会から国にボールが投げられました。国(内閣府)は、ALPS小委員会からの回答をもらって、現在、自治体や地元の方々とコミュニケーションをとりながら方向性を決めているわけです。国で方針がある程度固まったところで、東京電力に指示がくることになります。今のところ、東京電力は「海洋に流したい」とか「蒸発させたい」ということは全く言っていません。これは、基本的にウチが決められないことです。国から方向性が示された中で、「国から言われたからやります」ということではなく、地元の方々と話をさせていただきながら、理解を得ながら、進めていくという形になります。ほかの地域の理解は?と言われてしまうと、そこはなかなか難しくて、これはやはり、福島県だけでやっていることではなくて、日本全国を対象にしてやっているというふうになるのかなと思います。申し訳ありません。そんな回答しかできません。(櫛田氏)

 

 Q:電力会社として原発事故の前後で、原子力発電に対する印象とか、賛成や反対という意見で変わったところがあれば教えてほしいです。(2年K君)

東電:個人的な意見ということでよろしいですか?私は、福島第二原子力発電所に昭和57年に入社して、昨年の6月まで35年間勤務しました。日本って、エネルギー源がないじゃないですか。今、日本のエネルギー自給率というのは10%を割っています。再エネで、太陽光がいっぱいできている中で、それぐらいなんですね。再エネも伸びたし、水力は新しいのは作ってませんが、それらを含めて10%以下なのです。今もしも海外からの石炭だとかLNGだとか、そういうものが遮断された時に、どうしますか?という部分の中では、やはり、原子力ってある意味では国産エネルギーみたいなものになるんです。今の国の政策ですと、使用済み燃料をリサイクルして使いましょうということでプロジェクトとして動いてはいますが、震災以降、規制側の基準が厳しくなり、なかなかそれがうまく回っていないというのも確かにあります。ただ、エネルギー・セキュリティを考えた時に、やはり、原子力が必要なのかなと私は思います。しかし、そうは言っても、これだけ地域の方々にご迷惑をかけてしまったということがありますので、その中では、地元の方々とコミュニケーションを取りながら、謝罪しながら、福島第一、福島第二については、廃止をするということで、そこはもう致し方のないことだということはわかります。ただ、全体的なことを考えれば、やはり、原子力は必要だと思います。(櫛田氏)

日本の国のエネルギー事情を考えると、原子力という選択肢に自分から手を放すということが本当にいいことなのかどうかということを自問しているところです。最近、CO₂の削減の問題で、石炭火力発電所が槍玉にあがっていて、この発電方式すら選択肢の中から消えていく恐れがある。ファイナンスの問題もあって、なかなか事業として成り立たなくなっていく恐れもありますけど、そうすると、日本って何でエネルギーを得るんだろう?太陽光、風力、地熱、こういった再生可能エネルギーだけで絶対に賄うことはできないのは、みなさんにもわかると思います。それ以外のエネルギーでどうやって埋めていくのか?考えて行く中でも、その疑問がいつものしかかっているところです。原子力発電所のこういった事故を我々は経験してしまったわけですから、より安全なことを実行していったらいいなと思います。最近、もっとコンパクトで新しい手法の原子炉の開発が進められています。そういった研究開発を進めていく必要があると思います。(坂本氏)

 

Q:燃料デブリを取り出すということですが、取り出してから置いておく場所は具体的に決まっていたりするのですか?(2年女子)

東電:燃料デブリも含めて今1Fはすべてそうなんですけど、発電所内で出たものは持って行き場所が今のところどこにもありません。ですので、構内で全部管理しなくてはならないというのが現状です。将来的には、外に処分できるところに持っていきたいと思いますが、まだこれから調整するところで、話し合いをしながら決めていくということで、まだその段階ではないんです。構内のドラム缶の中にそういった固体廃棄物を入れて、それを貯蔵庫で管理するというような形になります。デブリ燃料も同じです。少しずつかき集めて、取れるものから回収していくという形になりますが、デブリ燃料というのは、どういう組成になっているのかわからないわけです。その分析をするための場所も発電所構内に設けて、回収したものを分析して、それを安全に管理するための保存方法を考える必要があります。ただ、固体廃棄物貯蔵庫にそういったものも置いて管理するということしか今のところはないという状況です。(櫛田氏)

 

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知識や理解の不足による気おくれ(大人にありがちだ)を乗り越えて果敢に手を挙げ、ストレートに問いかける生徒たちに対し、東京電力の方々も誠実に丁寧に回答していたと思う。

この「学宿」に来る直前、私は別の会合で、原発事故被害者団体連絡会共同代表と福島原発告訴団団長を務める武藤類子さんから東電刑事裁判の経緯や事故当時の東電経営陣の責任を厳しく追及するお話を聴く機会があった。また、「学宿」後の3月上旬には、映画『Fukushima 50』を観た。あれが事実とかなり違うのかどうかはさておき、東京電力の上層部と現場のコミュニケーションの悪さを強く印象づける映画だった。

事故という事実があり、それぞれの立場がある。東京電力という巨大な組織は、遠い外部の中学生から見れば抽象的な悪の塊のように感じられていたかもしれない。「なぜ自分たちにこんなにいろいろ教えてくれるのか?」という質問からは、来てみると意外と良い人たちだったという驚きのような気持ちが滲み出ている。これまでに私がお会いした数少ない東電関係者のみなさんも真面目で誠実な方々であった。もちろん、全社員約3.3万人という組織の一員であり、その配属に応じた役割を果たすべき担当者という立場から決して逸脱しない発言に終始するのは、東京電力に限らず、あらゆる組織人に共通の態度である。

その点では、今回の「学宿」のプログラム中、これまでに対話を行った山口さん、西崎さん、吉川さんのような「個」が際立った言葉とは趣きが異なる。それでも、中学生の質問により「個人的な見解」もかなり引き出されていたことに感心した。また、全体セッションが終わった後で、個別に質問している生徒もいた。詳細は把握できていないが、9兆円を超える原子力損害賠償が電気料金にどのように影響しているのか、していないのかを尋ねていたようだ。

組織は人間によって構成される。個々の構成員は感情と意見を持った生身の人間であり、各人が自分の任務に懸命に取り組んでいること、しかし、組織全体としての意思決定は簡単ではないということを生徒たちは感じ取っただろうか。(続く)