よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

咲いて、散って、La La La

「咲いて、散って、ラララ」

f:id:chihoyorozu:20210419153735j:image

このタイトルに心惹かれ、ひさびさに立川のアーティスティックスタジオLaLaLaに行ってきた。

ギャラリーにもコンサートサロンにもダイニングキッチンにもなる居心地の良い空間。6年ほど前、当時勤めていた新聞社を辞めるかどうか、なかなか踏ん切りがつかなかった私の背中を押してくれた場所の一つだ。

音楽とアートは人生を変えることがある。

いろいろお世話になったものだが、その後フリーランス稼業が忙しくなって〆切に追われるうちに足が遠のいてしまっていた。2年ぶりかな・・訪ねる前に少し緊張する。

橋詰健さんと知り合ったのも、このLaLaLaを主宰するしおみえりこさんのご縁のご縁(笑)。ご縁はご縁を呼ぶのだ。

昨夏、お母様が亡くなられた時の橋詰さんのFB投稿が心に響いた。82歳といえば、私の実家の母とほぼ同い年。驚いたのは、橋詰さんのお母様が81歳で突然絵を描き始めたという話だった。最後の一年間、毎日毎日、夢中になって描いておられたという。残された30数点の絵の展覧会がLaLaLaで開かれることになった。お知らせをいただいた時、ああ、ぴったりの場所だと心が温かくなった。そして、この方の絵をぜひ見てみたいと思ったのだ。

 

ひさびさのLaLaLaに、なんとなく恐る恐る足を踏み入れると、明るい色彩が目に飛び込んできた。それぞれの絵にぴったりの赤や青や黄色の額縁(と言うか台紙?)も鮮やかで、LaLaLaの白い壁に映える。

野の花、ハイビスカス、松ぼっくりざくろの実、ほおずき、そらまめ、チューリップ・・・この懐かしい感じは何だろう? そうだ。小学校の写生の時間だ。図画工作の教科書で見たような、教室や廊下に掲示される上手な子の絵のような、天真爛漫な年頃の絵を思い出した。花々と果物の姿をありのままとらえようと、画用紙の上で無心に筆を動かしペタペタと色を重ねておられたという一生懸命な姿が目に浮かぶ。

私は子どもの頃、絵を描くのが苦手だったので、美術の授業にはトラウマがあるけれど、こんなふうに身の回りのものを描いてみたいなぁと思った。授業じゃないし、今なら自由に描いても怒られないかな、いやー楽しそうだ。

81歳の母の日に、次女である橋詰さんの妹さんから贈られた紫陽花の花を見て、「これを描きたい!」とお母様は突然絵筆を持つようになったそうだ。長女である橋詰さんのお姉さんが綴られた文章が味わい深い。

亡くなられる前の最後の一枚も紫陽花だった。唯一の未完成。余白が切ない。

LaLaLaの空間に包まれ、三姉弟妹のお母様への思いのこもった展覧会だった。

会場の片隅に控えめな年譜が記されていた。病に倒れたご夫君を支え、苦労しながら3人のお子さんを育て上げたこと。60代でご夫君を看取られてから、突然バイクの免許を取り、単身アメリカのシアトルに留学したこと。その後、自身の病にも負けず、イタリア・ギリシアを旅したこと。その行動力と自由な精神に感服する。人間、いくつになっても何か新しいことを始められるのだと。そして、橋詰静穂さんは最後まで、やりたいことを精いっぱいやったんだなぁ・・・一度もお会いしたことがない静穂さんに思いを馳せる。

コロナ禍中、鬱々と引きこもって過ごしているであろう両親に電話してみようと思った。父にはメールのほうがいいかもしれない。今はなかなか大阪まで会いに行けないから。

 

f:id:chihoyorozu:20210419154437j:image

えりこさんと橋詰さんとひさびさの再会。橋詰さんのお姉さんにもお会いできた。買って帰った小さな画集はお姉さんが編集なさったものだ。ページをめくり、カラフルな絵に添えられた文章を読み返しながら、原画を思い出している。

「咲いて、散って、La La La」

それにしても言い当て妙のタイトルだ。

やろうと思うことをぜひともやろう。