よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

サントリーホール オープンハウス① 急な記事

サントリーホールに初めて入ったのは、プロの演奏会を聴きに行った時ではない。開館間もない1987年の1月、所属していた学生オケの70周年記念定期演奏会の時だった。5年に一度の東京公演である。「世界一美しい響き」を目指して設計された東京初のクラシック音楽コンサート専用ホールのステージに立って大太鼓を叩くとは、今考えても大それたことだった。ちなみに、日本初のクラシック専用ホールは大阪のザ・シンフォニーホールである。年に2回の定期演奏会の大阪公演はそこでやることが多かった。学生の分際でずいぶん贅沢な経験をさせてもらったものだ。

卒業後は自分が舞台で演奏することはなくなったが、素晴らしいコンサートを聴く機会には恵まれた。やっぱりコンサートホールっていいな・・と周りの人たちにも思ってもらえたら嬉しいという気持ちがどこかにあったところ、サントリーホールのオープンハウスについて紹介することになった。月に一度、無料で開催されているパイプオルガンのコンサートやガイドツアーもあるが、オープンハウスは年に一度。昨年は改修工事があったため2年ぶりとなるオープンハウスをぜひ盛り上げたい、もっと外国人にも来てもらいたいということだった。

しかし、ぎりぎりのタイミングだったため、担当エディターから「もう紙面は決まっている。ウェブだけでいいか?」と言われた。やはり、文化関係のページはニュース速報の紙面とは異なり、どちらかと言えば雑誌の感覚に近いのだ。仕方がないと思っていたら、直前に紙面の端がぽっかり空いたとかで、急きょ小さな帯のようなスペースにささやかな記事を載せてもらえた。諦めずにとりあえず送ってみるもんだな。何が起こるかわからないから。

www.japantimes.co.jp

今回は紙面とウェブ版がかなり違っているのが面白い。なにしろ、紙面はスペースの制約があるので、ダメ元で適当な長さで書いたテキストが半分ぐらいにカットされていた。しかも、編集の過程で、サントリーホールのパイプオルガンについて補足説明で送ったメールの文面が記事の本文に盛り込まれていて驚いた。

ホール建設に際して「オルガンのないコンサートホールというのは、家具のない家のようなものです」とカラヤンが当時のサントリー佐治敬三社長にアドバイスした言葉が、エディターはえらく気に入ったようだ。9年ほど前、元・カラヤンの秘書で今もサントリーホールのエグゼクティブ・プロデューサーである眞鍋圭子さんにインタビューした時に聞いたカラヤンの言葉だ。

www.japantimes.co.jp

その後、拝読したご著書『素顔のカラヤン』にも出てきた。

 

www.gentosha.co.jp


今回はわずかなスペースにそこまで盛り込もうとは思わず、ただ、エディターの参考のために送った説明のつもりだったのに、その部分が急に記事になったりするとはびっくり。そこは、外国人でクラシックにさほど詳しくない読者の場合、何を面白がるかという観点でのエディターなりの判断なのだろう。

返信では、「そういうインフォのほうが大事だよ。でも、カットした部分もウェブには入れるからね。写真も両方使おう」と言ってきた。そして、「ウェブ版の見出し、キュートでキャッチ―だろ?」と自画自賛している。なになに?

You too can grace the stage at Suntory Hall
(あなたもサントリーホールでステージを飾れる)

なるほどねー

ちなみに、紙面はごく普通の見出しだ。

Suntory Hall opens its doors to the public
サントリーホールが一般公開)

1コラム幅に小さいフォントで3段書きだから確かに調整しづらいし、第一、記事の本文に書いていないことを見出しにするわけにはいかない。

ということで、ウェブ版は本文中に「この日は特別に午後の1時~2時半まではステージに上がれる」という情報もしっかり含まれていたし、写真でもわかるようになっている。

紙媒体とウェブ版の適宜の使い分けは、イマドキの過渡的な対応の一部に過ぎないが、紙面スペースもかけられる時間もマンパワーも限られている中で、なんとかベターな形で読者にこのイベント情報を伝えようという気持ちをエディターと共有できたように感じられる今回のささやかなプレビューであった。

オープンハウスの当日、サントリーホールに行ってみると、はたして、ステージに上がりたいという人々の行列ができていた(続く)。

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