よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

地層処分って本当にできるの?④ 異なる立場から

北海道・幌延行きに先立つ7月14日、地層処分をテーマにしたドキュメンタリー映画『チャルカ』を観た。

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上映会の主催者で私にも声をかけてくれたのは、フリージャーナリストの稲垣美穂子さん。稲垣さん自身、2012年に地層処分をめぐるドキュメンタリー映画『The SITE』を発表している。私は2013年に彼女の活動を取材して以来のお付き合いである。

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上映会は7月下旬の「ほろのべ核のゴミ問題を考える全国交流会」に参加するスタディーツアーのプレイベントとして企画された。会場のSHIBAURA HOUSEは、あの妹島和世氏の設計によるおしゃれな空間。前職オフィスの近所だったので馴染み深い場所だ。ツアーの参加者と思しき面々を中心に10数名という小じんまりした上映会に、ゲストとして島田恵監督も出席していた。

地層処分がテーマだが、映画のタイトルの『チャルカ』とは何なのか?

「『チャルカ』とは、インドの手紡ぎ糸車の事です。インド独立の父、ガンジーはイギリスの支配から自立するために、自国で生産した綿花を自分たちで紡ぎ、その糸を手織りにした布(カディ)を産業にしようと提唱しました。糸車を回すことは未来への祈り。タイトルにはその思いを込めました。」(映画のチラシより)

なるほど・・自立。未来への祈り。さらに、島田監督の公式サイトには、「『巡る因果は糸車』と例えられる仏教の教えは、自分のした行いは、良いことも悪いこともやがて自分に返ってくるといわれるものです。私たちが体験している悲惨な原発事故も、人間の過去の行いが巡り戻ってきたと考えられるかもしれません。」と綴られている。チャルカ(糸車)にはなかなか深い含意があるようだ。

shimadakei.geo.jp

この日は体調が悪く、若干集中力を欠いた映画鑑賞となったのが我ながら残念だが、パンフレットも非常によくできているので、ページを繰りながら改めて振り返ってみる。

最も印象に残っているのは、映画の前半で高レベル放射性廃棄物六ヶ所村に運び込まれるシーンであった。今のところ再処理工場が稼働していない日本では、原発で出た使用済み燃料は海外で再処理され、ガラス固化体となって1995年から日本へ返還されてきている。専用船が六ヶ所村むつ小川原港に着き、一時貯蔵施設へと運ばれるガラス固化体が20本余りが金属製のキャニスターに収められた状態で雨に打たれてもうもうと湯気を上げていた。これがそれか!!こういう映像は初めて見た。

それが六ヶ所村で30年から50年間冷やされた後、どこへ運ばれるのか? その最終処分場が決まっていないというのが長年続いている状況である。

この「核のゴミ」がどのようにうまれるのか、ウラン鉱山から原発を経て再処理されガラス固化体になるまでの過程がわかりやすく図解され、また、過去20年間に世界で起こった地震の分布図が紹介されていた。世界地図の上に地震が起きた地点が赤い点で示されているが、当然予想されることながら、日本列島はすっぽり赤い点に覆い尽くされている。地質学者で元動燃主任研究員の土井和巳氏は、「地球の長い歴史からすれば、日本は今地殻変動真っ盛りということになるんでしょう。」「地下水の多い日本ですから、必ず水が回っています。そうなると、地層処分ということは出来ませんと言わざるを得ないですね。」と語る。

地層処分ができないことについて、土井氏には著書が数冊ある。

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地層処分について多少は読んだり見聞きしたりしてきたが、この本はまだ。読んでみようか・・・島田監督のサイトにインタビュー時の記事がある。

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映画『チャルカ』では、「核のゴミ」をめぐる諸外国の事情も紹介されている。とくにフィンランドとフランスでは現地取材も敢行し、最終処分場受け容れの賛成派と反対派の両方の声を聞いている点には好感が持てた。フィンランドのオルキルオト原発の近くのオンカロマイケル・マドセン監督のドキュメンタリー映画『100000万年後の安全』でもよく知られ、多くの人々が視察に訪れている。今回の『チャルカ』には、小泉純一郎元首相が「私も行きましたよ!オンカロ!」「自分なりに勉強し直しましたよ!日本は地震が多いから地層処分は無理!」と講演会で語るシーンも出てきた。

日本は地震が多いし、地下水が多い。だから地層処分は無理だ、というのは一理あるのかもしれない。しかし、「当面は原発の敷地内に貯蔵庫を作りそこに保管するしかないでしょうね。」(土井和巳氏)というのは、納得がいかなかった。地震が多い日本ならなおのこと、地上で管理するのは危険極まりないのではないだろうか。危険は地震だけではない、雷、台風、竜巻、テロ、ミサイル?!などなど。地下に較べて地上のほうが安全であるという根拠や、地上でどのように管理するのかという方法論は示されていなかった。ただ、地層処分を認めてしまうと、最終処分場の建設、そして、原発再稼働、さらに原発再推進に道を開くことになるから、それを阻止するための地層処分反対、そのために日本の地下が危険である根拠を挙げている、どうしてもそのように聞こえてしまうのは、私も自分の考えに固執していることになるのだろうか? とにかく諸外国はいざ知らず日本では絶対に無理、という論調であった。

この映画のもう一つの柱は「チャルカ的生き方」として、北海道豊富町酪農家である久世薫嗣さん一家である。久世さん一家は1989年に兵庫県の山村から北海道に移り住み、原野の真ん中に家や牛舎を建てるところからスタート。まさに平成の開拓物語だ。一家は自前の久世牧場で生産された新鮮な牛乳を使ったチーズやジェラートを製造する工房レティエを営む。子どもの頃に憧れた「大草原の小さな家」のような世界・・・

Vol.18 握りこぶしひとつで、豊富町に入植した久世一家の波瀾万丈物語。 | いいね!農style

豊富町幌延町の隣である。久世さんが移住してから2年後の2001年から幌延深地層の研究が始まり、2003年には深地層研究センターの建設が始まった。1980年代から隣町の幌延原発関連のさまざまな施設の誘致が試みられた紆余曲折を久世さんもご存じだったのではないかと思うのだが・・それを承知の上で豊富町に移住されたのだろうか?そのあたり、お話を伺ってみたいところである。

幌延深地層研究センターにおける研究については、北海道・幌延町・核燃料サイクル開発機構(現:日本原子力研究開発機構JAEA)の三者により締結した「幌延町における深地層の研究に関する協定書」(「三者協定」)と、幌延町民を代表する町の意思決定機関である幌延町議会の議決を経て公布された「深地層の研究の推進に関する条例」を遵守して進められているが、それでも幌延がなし崩し的に処分地とされるのではないかという危惧から、周辺住民を中心に、幌延を核のゴミの最終処分場にさせないための活動が展開されてきた。

毎年7月末頃「ほろのべ核のゴミを考える全国交流会」が開かれ、久世さんもその代表実行委員に名を連ねる。2015年に第7回が開催されたということだから、2009年から始まったのだろうか。

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今年の全国交流会に参加するスタディーツアーを企画した稲垣さんから私もお誘いを受けたのだが、その時には既に別グループでの幌延行きが決まっていた。

今年の全国交流会のレポートはこちら。

becquerelfree.hatenadiary.jp

前日(!)の7月28日に公表された「科学的特性マップ」への批判として、立石雅昭新潟大学名誉教授(地質学)による 「核のゴミ地層処分〜安心・安全な『適地』あるの?」と題する講演、および、深地層研究事業の終了時期・埋戻し工程表の提示と調査・研究の完全な終了時期などJAEAへの申し入れと質疑といった内容で活発な議論が行われた模様だ。参加した稲垣さんにも聞いてみたい。

全国交流会が終わった後のことになるが、8月8日に別グループの一員として幌延深地層研究センターを訪ねた。センター内のPR施設であるゆめ地創館のロビーには、このような断り書きが掲示されている。

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そして、「三者協定」の写しも掲示されていた。

もちろん、放射性廃棄物処分の問題も原発の是非も、総合的に判断しなければならないとは思うが、どうも原発を推進する立場からは地層処分が技術的に大丈夫であるかどうかだけを考えており、一方、原発に反対する立場からはそもそも廃棄物の処分方法を本気で考えてはいないように思われる。そこに、政府や原子力関連諸機関に対する不信の度合が絡まり、科学的・技術的に一般市民にはブラックボックスな部分への理解にもおのずと色がついてしまうのである。地層処分に技術的に賛成することが即ち原発推進と見做されがちであるため、この話はいつもこんがらがって前に進まない。

「地層処分は無理」「地上で管理するしかない」「廃棄物の処分は無理であって、これ以上、核のゴミを増やしてはいけない。だから原発は即やめるべき」「火力発電では地球温暖化がますます進む。再生可能エネルギーでは到底足りない。当面は原発再稼働すべき」「地層処分は可能」・・・どちらも結論ありきの話であり、なかなか噛み合わない。

 

上映会後に島田監督を囲んで質疑応答が行われたが、「原発に反対であり地層処分は無理」という見解が主流を占めるその場で異論や疑念を唱えるのはちょっと難しいと感じた。日本全国民が久世さんのように北の大地で自給自足の生活を営むのは到底無理であることだけははっきりしているのだが・・・体調不良のため上映会後の懇親会への出席も断念したが、ぜひまた機会を設けて島田監督とも稲垣さんともじっくりお話してみたい。(続く)