よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

パネルディスカッションは難しい⁈ ~日本・ベラルーシ友好訪問団2018報告会その③

諸々雑事に追われている間にずいぶん時間が経ってしまったが、メモを頼りに記録と記憶を残しておこう。

去る10月8日に福島県内のJヴィレッジで開催された日本・ベラルーシ友好訪問団2018報告会。前半に福島の高校生たちとベラルーシの学生たちが素晴らしいプレゼンテーションを行った後、休憩をはさんで後半は、福島の高校生たちによるパネルディスカッションであった。

 詳しい名簿などはわからないが、2グループそれぞれ8人ずつパネリストとして登壇した生徒たちの名前と学校名を見たところでは4校の参加があったようだ。モデレーターは福島出身で「福島学」の提唱者として知られる現・立命館大学准教授の開沼博氏が務めた。テーマは、「記憶の継承」と「いま必要なリーダーシップ」。

 

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Q. どのように記憶を継承していったらいいと思いますか?

 

  • 資料館や博物館を作る。2020年に双葉町に作られるアーカイブ施設がこれに当ると思う。アーカイブ施設には震災に関するさまざまな展示品があるが、足りないと思うものがある。それは実際に地震の揺れを体験できるコーナー。当時の写真や模型だけではどれぐらい大きな揺れがあってこのような事故につながったのかが実感できないが、「揺れ」を体験することで防災意識が育まれると思う。(ふたば未来学園高校・M)
  • (実際に体験することに関連して)避難生活を体験できるような施設を作るといいと思う。避難所になった体育館の3月の寒さや食べ物を再現することで防災意識を育てる。(磐城桜が丘高校・S)
  • (実際に体験するという観点で)現場を視察するということが大切だと思う。言葉や文章よりも実際に目で見るほうが伝わると思う。今回、福島第二原発を見学して、以前は原発は危険だとしか思わなかったが、線量計をつけて現場を回った後、線量計の数値がゼロμシーベルトと表示されていて、今はすごくわずかな線量になっていることがわかった。原発の中で働いていた人たちは、「若い人たちが来てくれると嬉しい」と言っていた。(磐城高校・N)
  • VR(Virtual Reality 仮想現実)、AR(Augmented Reality 拡張現実)など、最先端技術を用いて展示するのが良いと思う。今回の合宿で訪ねたリプルンふくしまでは、特定廃棄物処理場の模型にタブレット端末をかざすと液晶画面に説明が表示されたり、モードを変えると埋め立ての行く末の時系列がARで見られたり、プロジェクションマッピングで説明がわかりやすく表示されたり、小さい子どもにもわかりやすい展示で理解を深めることができた。そのような技術を使って復興過程を伝えられると良いと思う(平工業高校・W)
  • SNSなども含めて、最近発達しているメディアを使って伝えていくべき。3.11後に流れた当時のACジャパンのCMの音楽や金子みすずさんの詩などの記憶がだいぶ薄れてしまったが、たとえば毎年3月11日など、全国であのCMしか流さないような日を設けて震災を体験していない人にもあの日の辛さを疑似体験してもらったり、私たちが思い出すためにもメディアを使っていくべきだと思う。今日のような報告会など、復興関連のイベントがあることをSNSで知らせるのもいいと思う。ただ、SNSだとやっている人に限られてしまうので、若手俳優を起用した映画やドラマなどを活用していくことで、興味がない人にも目につきやすい環境づくりができる。(磐城高校・N)
  • ベラルーシの中等学校でやっているような放射線教育が大事だと思う。小中学校で放射線教育が義務化されているが、ほとんどちゃんと行われていない。中学時代、(放射線教育を)やりたくないという先生もいたが、放射能についてもう少し知識を深めてもらって、私たちは放射能のことを学ぶ必要があるのだということを理解してもらうことが大切だと思う。(磐城桜が丘高校・S)
  • ベラルーシハティニ村で見た銅像がとても印象に残っている。すごく悲惨な戦争の話を聞いて、当時のまま残されている村を見て、戦争について考える機会になった。周りの景色も美しく、また訪れたくなるような場所だった。そういう場所を福島にも作るのがいいと思う。震災に関しては、地震とか津波の被害のことは伝わっていると思うが、原発被害のことがあまり伝わっていないと思うので、そういうものを伝えていけたらいいと思う。(磐城高校・N)

 

Q.何を伝えていくべきでしょうか?

 

  • 福島第一原発の事故直後の普通ではない異様な風景自衛隊や警察の特殊車両が自分たちが普段使う道路を走っていく様子や防護服を着た人達が作業している姿。見たこともなかった線量計など、放射線の測定器などが身近なところで売られていた。原発の事故を風化させず、どのような対応がなされていたのかを伝えることが重要だと思う。(磐城桜が丘高校・A)
  • 決して状況を甘く見ないで適切に判断することの大切さ。震災当時小学校3年生で下校中に地震が起き津波を体験した。防災スピーカーから大津波警報が流れてきたが、ちょっと状況を甘く見てしまい、すぐに避難するという判断ができなかった。一歩間違えたら大変なことになっていたと思う。(磐城高校・T)
  • 事故から時間が経ってしまうと私たちの記憶も風化してしまう。周囲の環境や身体的なものは形として残って伝わっていくと思うが、私たちが感じた精神的なものはなかなか残りにくい。私たちの気持ちを人の口から非体験者へと形のない遺産として語り継いでいくことが大切だと思う。語り部の会があまり普及していないし、その人の大切な記憶を踏みにじってしまうとか、つらい記憶を無理してまで思い出して語ってもらうことにもなるが、当時の生々しさや、形・物ではわからない自分の気持ちが人の口によって語られることによって、私たちの心に消えない記憶として継承していくべき。(磐城高校・N)
  • その当時足りなかった物資や食糧。どれぐらい足りなくて、いつ必要になるのかという情報を次の災害に生かすべき。たとえば、熊本地震や北海道地震で、私たちの前例があったにもかかわらず、物資が足りないということが報道されていた。私たちが経験したのにそれが生かされていないと強く感じた。(磐城桜が丘高校・S)

 

Q.復興も一定程度進んで希望も見えるようになった今、現にある地域の課題を解決していくことにつなげられるような記憶の継承のあり方とは?

 

  • 福島だけでなく日本全体の課題として高齢化問題がある。ベラルーシのように、原発事故で入れなくなった地域の人や避難している人への補償によって住みやすい地域にすればその地域の高齢化問題を解消し、地域の活性化にもつながる。双葉郡で帰還率が高いのは高齢者が中心だが、病院が足りないなどの苦闘の状況を記憶として伝える。(平工業高校・W)
  • 先ほど現地に赴いて実際に体験するという話が出たが、現地を訪ねるツアーなどをもっと活性化させて、観光客が来ることによって地域を活性化する。ベラルーシと違って福島は今、戻って来れるような環境づくりを今しているところだと思うので、商業施設なども含めたツアーで「また来たい」と思ってもらい住民も戻ってきやすいようにする。(磐城高校・N)
  • 国際的にも福島の原発に対する関心が薄れているのが問題だが、今でもデータや文章で発信している人たちもたくさんいる。そういう人材を絶やしてはいけないと思う。その中で思うのはベラルーシと日本の教育の差。そもそも日本では放射線の問題に関して知る機会がとても少ない。なので、学校教育を充実させることが大切だと思う。(磐城高校・T)
  • 学校教育に関することで、ベラルーシでは学校で放射線について学ぶクラブ活動がある。それを日本でも取り入れ、文化祭のような学校行事で発表することによって、もっと多くの生徒に伝えていく。(磐城桜が丘高校・S)

 

次にパネリストが交代して「リーダーシップ」についてのディスカッションに移った。

 

Q.いま必要なリーダーシップとは? リーダーにとって何が重要だと思いますか?

 

  • ベラルーシでのプレゼンのリーダーを務めて感じたのは、リーダーには「聞く力」がいちばん必要だということ。チームの一人一人の意見をしっかり聞いて、個人ではなくグループの発表としてまとめていく。また、意見を聞くということだけでなく、自分がわからないことは積極的に人に質問するという意味の「訊く」ということも大切だと思う。(磐城高校・Y)
  • 自分の発言に責任感がある人がリーダーに向いていると思う。今、楢葉町に住んでいて日常生活でフレコンバッグを見ることが多々ある。今は中間貯蔵施設を作っているが、国は30年後には県外に持っていくと言っている。そういう発言に責任を持てる人にリーダーになってもらいたい。(ふたば未来学園高校・Y)
  • リーダーには胆力が必要。ベラルーシのゲームストリーム社の社長にリーダーシップとは何かと聞いたら、「いつも前を向いていること」と言った。想定外の事態が起きた時に前にいる人が堂々としていないと、ついて来る人たちが不安になってしまう。仲間を不安にさせないためにも、いざという時にびっくりしない胆力が必要なのではないかと思う。そのために経験を積み、場数を踏む。(磐城桜が丘高校・H)
  • 環境を作る能力ベラルーシのゲームストリーム社の社長は、「社長の仕事は、部下を活かすこと。部下の意見を取り入れるという意味での環境づくりの大切」と言っていた。これを福島に置き換えると、福島では今、上の人々が下の人々のの意見を反映させているとはあまり思えない。(磐城高校・K)
  • 自分の信念を持っていること。ベラルーシでプレゼンの班長をやったが、上手く進まなくて悩んだ。ベラルーシのゲームストリーム社の社長は「すべてはうまく行く」という言葉を大切にしていると言った。その話を聞いた時に、リーダーは自分の信念を持つことが大切なのかなと思った。(磐城高校・Y)
  • 決めたことをやり通す力。福島は18歳以下の医療費を無料にするなど、すばらしい施策を行っている。そこでHPを見て思ったのが、いつ終了するのかが明記されていないこと。これを見た住民に「医療費無料」という安心感を与えるためには、そのことを明記すべきだし、住民を安心させるためにも決めたことをやり通す力が大切だと思う。(磐城高校・S)
  • 目標設定すること。日本は放射能で汚染された地域のできるところから除染を始め、本当に除染が必要な場所が後回しにされたりした。ベラルーシでは、人が入れないと決められた場所や森は除染をせずに、必要な場所だけを除染をしたので効率が良かった。国や福島が何のために除染をするのかを考えるように、私たちも何かをやり遂げる時に、何故それをするのか、またやり遂げてその先どうしたいのかを考えると共に、小さな目標を決めることが大切だと思った。(磐城桜が丘高校・K)

 

Q.どのようにリーダーシップを発揮すればいいか?

 

  • リーダーには計画を立てる力が必要で、目の前のことに手をつけて終わりではなく、その先を見通した計画を立てることで、それに向かって進んで行くことができる。計画を立てないと、躓いたときに何をしたらいいのかがわからなくなるが、計画があれば、その先に切り替えることができると思う。トップは決めたことに責任感を持つとともに、周りの人たちもそれを支えることで計画が達成させられる。(磐城桜が丘高校・K)
  • 計画を立てる上で広い視野が必要。自分のやりたいことだけを考えて計画を立てるのではなく、周りの人々の立場に立って考えないとうまく行かない。(磐城高校・Y)
  • 大局観。いざという時にどう勝負するか。その判断には多角的な視野を持って、様々な情報からそれを判断する必要があると思う。組織で話し合いが滞ってきたときにやはり決めるのはリーダーになってくるので、ここぞという時に勝負できる気持ちや視野を持つことが必要なのではないか。仕事を与えられた時に自分がやっていることだけでなく、仲間がやっていることも意識して進める。(磐城桜が丘高校・H)
  • リーダーには強い意志が必要。上が「何をしたいか」を明確に下に伝えることで下の人たちも士気が上がり効率よく作業を進められるのではないか。(磐城高校・K)
  • (強い意志に関連して)第2原発で震災直後に停止した電源を復旧させるために作業員が30時間働きっぱなしだったという話を聞いた。それはリーダーに強い意志があって、周りの人もみな協力し合ったのだと思う。(ふたば未来学園高校・Y)

 

Q.現にある福島の課題をこれから時間をかけて解決していくために求められるリーダーシップとは?

  • 帰還困難区域から解除された町の帰還率を上げるためには、現状を知らせる情報発信が必要。(磐城高校・S)
  • 福島の風評被害をなくすためには行動力が必要。風評被害をなくすための情報提供には、国や県の情報だけでなく、高校生でもできることがいろいろある。「大丈夫だよ」という新聞を作ったり、ウェブサイトを作って日々更新したり、いろいろできることがある。行動力を持った人たちが集まれば、風評被害もなくなっていくのではないか。(磐城高校・Y)
  • 福島への愛。「仕事だからやっているだけ」だといずれ離れていく。他県の人でも、福島を思う気持ちのある人がやれば、課題が解決していく。(誰の発言か記録なし)
  • 今の福島は戻りたいと思っても汚染されていて避難指示が出ていて戻れなかったり、帰れる場所でも人がいないから戻らないという人が多い。そういう人たちの不安を私たちがなくしたり、地域の人たちの交流の場所を作ることで、戻りたいという人が増えてくると思う。そういう周りを見る気配りの力も大切だと思う。(磐城桜が丘高校・K)
  • いろいろな問題を解決するには意見を取り入れる柔軟さが必要。ベラルーシでは、女性が重要なポストに就いていることが多いと感じた。福島では女性が知事になったことがないという歴史的な背景もある。会社や組織のリーダーも、年功序列や男尊女卑的な考えに囚われることなく、ゲームストリーム社の社長さんが言っていたように、能力のある人を雇用し部下を活かすというところでも柔軟さが必要。(磐城桜が丘高校・H)
  • 全体を見渡せる力が大切。「買い物難民」の問題を解決するにも、バスが通れるようにするとかインターネットが使えるようにするとか、税金の使い方について、さまざまな考え方があるので、リーダーは全体を考えて、日本や福島が活性化できるようにするのが大切だと思う。(磐城高校・Y)

 

*****

 

今日の報告会のために準備してきたのだろう。開沼氏の問いかけに対して、一人一人の生徒が、紙に書いたキーワードを見せながら、それぞれしっかり語る姿にまずは素直に感服した。とても立派だ。誰かも言っていたように「政治家に聞かせたい」。

と同時に、パネルディスカッションという形を取ることにやや違和感を感じた。生徒たちの発言に幾ばくかのフィードバックを与えつつも、基本的には「そうですねー。はい、ほかには?」という進行で、議論になりそうな手前で次の発言に移る形だった。短時間でうまくまとめなければ、というモデレーターの立場はわかるし、まぁ、巷の大人のパネルディスカッションもそういうパターンがほとんどで、フラストレーションを感じることが多いのだが・・

一人一人が自分の意見を言うだけであれば、個々のプレゼンでいいのではないか?と常々思う。今回は前半のプレゼンとは体裁を変えたかったのか。あるいは、時間内に特定のテーマについて、なるべく多くの生徒が発言できるようにパネルディスカッションという形式を使ったのか。パネルディスカッションだがディスカッションしようとは思っていない・・という印象を受けた。

 途中、パネリストの男子生徒の一人が、「前半のプレゼンで〇〇君が、ベラルーシのほうが日本より被災者に対するケアが手厚いというようなことを言っていましたが、僕はそうは思っていません。日本でも福島県では18歳以下の医療費が無料などの制度があって、被災者へのケアがあると思います」と言った。

 お!そういう発言に対して、さっきの生徒は何と答えるだろう? ベラルーシの学生はどう思うのか? 大人たちはどう説明するのか? 

そういう見解の相違を深掘りすると面白そうな局面だったが、今回はそういう流れにはならなかった。予定されていた質問に沿って開沼氏が問いかけ、生徒たちは促されて挙手し自分が準備してきた意見を発表するという形式で粛々と進行した。開沼氏や次に発言する生徒が多少その意見に補足することはあっても、異議や異論を唱える場面はほぼなかった。

何も 喧嘩せよと言うつもりではないが、他の生徒の意見に対する自分の意見を言う場面が少ないのはもったいない気がする。意見の違う生徒同士が、それぞれの考えを理解しようと努めながら侃々諤々議論が白熱する場面もあってよいのではなかろうか。それは、このように時間の限られた報告会で成果を示す方法としては難しいのかもしれない。時間を気にせず、いっそ大人の司会進行なしで、生徒同士が遠慮なく突っ込みを入れ、結論めいたものが出なくても、あちこち脱線しながら意見を出し合う・・・機会があれば、彼らのそんな話し合いを聞いてみたい。(続く)