よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

起業家に会うと、ますます24時間考えさせられる

自分では決して思いつかなかったことだが、ふとしたご縁で昨夏ビジネススクールに通うことになり、その流れで、このビジネススクールを経て起業した社長へのインタビュー・シリーズを書かせていただいている。

ビジネススクールに通った人で成功している例って少ないですよね」といつぞやどこかのベンチャーの社長が言った。確かに、スクールに行ったからと言って起業できるわけではないが、通学後、実際に起業に踏み切りスクールの人脈もリソースとして役立てている経営者は少なからずいるのだ。

この春からスタートしたこのシリーズで、これまでに4人ほどの起業家にお話を伺った。それぞれ持ち味の異なる経営者だが、共通しているのは「こんなサービスがあったらいいなと思って見渡してみたら、世の中にそのサービスがないので自分でやろうと思った」という点だ。

世の中にそれまでありそうでなかったサービス。それぞれ創業者の切実な実体験から着想され、試行錯誤を経て形になり、現在進行形でさらに発展中である。

それまでになかったサービスだからマーケットはブルーオーシャンだけれど、「ブルーオーシャン過ぎる」という反応も多いだろう。果たしてそのサービスは世の中に必要なのか?どれぐらいの人々に支持されるのか?その市場性に懐疑的になれば普通は身がすくむところだろう。

しかし、「(アイデアの)生みの親である自分がこれを大きくする責任がある。そう腹をくくった」(アイコトバの田中謙治社長)という覚悟、「グローバル化の広がりとスピードを考えると電子決済になっていくのは必然」(インフキュリオン丸山弘毅社長)という大局観、ワーキングマザーへのサポートとグローバルな次世代育成を一挙に実現する時代感覚(ビーシアム松川奈央子社長)、そして、今回インタビューさせていただいた仕事旅行社の田中翼氏の「人の可能性を広げる世の中」というビジョンが、数々の困難を乗り越えてそれぞれのビジネスを前へ進めてきた。

昨夏、私がそのビジネススクールで受講したのはアントレプレナーシップ起業家精神)を学ぶ講座だった。講座を通じて課された“宿題”は「24時間自分のビジョンと軸を考え続けること」というものである。なんのヒントもなく、これだけ言われて正直何をどう考えればいいのさっぱりわからなかった。わずか3か月では「私のビジョンはこれです」という確固としたものには到らなかった。ただ、ああでもないこうでもない、どう考えたらいいのだ???と考え続けているうちに、その当時の自分を取り巻く現実はかなり整理でき、ぼんやりとだが何か非常に重要なことに気がつき、この先の方向性が確かに感知できた・・・まだその程度だが、その“宿題”は、もはや、言われなくても生きている限り考えずにはいられない課題になり、受講のビフォーとアフターではその点が全く違う。

それが契機となって10年勤めた会社を辞める決意に到ったのだから影響は大きかったと言える。まだ自分のビジネスを立ち上げる手前でうろうろと試行錯誤しているのが実態だが、これまでにやってきたことをベースに新しい形を作っていくに違いないという直感だけはある。その過程で、このような形で具体例に触れられるのは有り難いことだ。

とくに今回お話を伺った仕事旅行社の田中翼氏の率直な言葉には共感するところ、心に響くところが多かった。

「『こういうことやりたいんだよ、この指とまれ!』式で
 始めたので、そこに利害関係や計算などは一切ありません。
 みんなが面白がって集まってきてくれています。
 関係性はフルフラットですし、それぞれが持っている
 スキルを提供してくれるという流れになっています。
 社員をマネジメントするという感覚はないですね。
 たとえ、明日ウチが潰れても彼らは彼らでやっていくだろうし。」

まさに、私が思い描いている理想のネットワークでありチームである。それぞれ独立して活動している人たちが、ある共通のプロジェクトのためにこんなふうに集まって各々の力を出し合えたらどんなにいいだろう。

また、今回改めて考えさせられたのは、ビジネスの規模についての考え方、そして、営利企業NPOの違い。

田中氏は、ビジネスを起こすこと自体が目的でベンチャーを始めたわけではなく、儲けるために会社を大きくしたいわけでもない。「人の可能性を広げる世の中」に近づけていくための事業として「仕事旅行」というサービスを始めた。「なぜNPOにしなかったのか?」と聞かれることもよくあるという。しかし、ミッション実現のために人々を説得して会費や寄付を募るNPOのようなあり方とも一線を画している、というお話だった。

自分の傾向として、「小規模で始めればいいしそのままでいい」と考えそうだし、ソーシャルビジネスをやるならNPOがいいのではないかと考えそうなのだが、そこのところ、もう少し考えたほうがよさそうだ・・・24時間ビジョンを考え続ける。これは一度始めたらもうやめられない。