福島の今を訪ねるバスツアーその②無人の浜通り
2011年の震災当時、息子たちが既に中高生だったからか、乳幼児を抱えたお母さんたちほど放射線量に不安を感じることはなかったが、それも日々の忙しさに取り紛れていただけなのかもしれない。それよりも学校が平常通りに機能してくれることのほうが関心事だった。まさに中高生の母親だな。被災地の学校は避難所になっていた。ニュースで見る被災地の大変な避難生活に心が痛んだ。
半谷氏がベラルーシ製線量計を持参したほか、何人か線量計を持っている参加者がいた。 私も線量計を持参した。今回のバスツアーには参加できないけれど震災直後何度も福島にボランティアに行ったという友人がベラルーシ製と日本製の線量計を貸してくれたのだ。しかし、ベラ ルーシ製のは電池を抜かないとスイッチが切れずピーピー音が鳴り続けてしまい、日本製のは計測に30秒もかかるものだったので、せっかく貸してもらったのに申し訳なかったが、途中から自分で測るのを諦めて、進行役に徹することにした。道路沿いや町中のモニタリングポストにも空間線量が表示されている。
参加者S氏の克明な記録によると、常磐道を北上するにつれて、いわき0.08μSv/h⇒広野町0.09μSv/h⇒楢葉町0.19μSv/h⇒富岡町0.26μSv/h⇒双葉町0.43μSv/h。
双葉町。この辺から急に上がり始める。
浪江インターで常磐道を降りて浪江駅前では0.24μSv/h。6号線沿いに今度は南下し、大熊町夫沢地区で福島第一原発から1.8km地点という至近距離で一時停車。
大熊町夫沢区内。福島第一原発から1.8km地点。彼方に5号機と6号機の排気塔が見える。
初めてきた時はこんな近くで外に出ていいのかと思ったが、道路沿いは除染と盛土の効果で0.76μSv/h。
大熊町内ではバスの中でも3.02μSv/hという高い数値が出ていた。富岡町のモニタリングポストでは0.189μSv/hだった。
線量計によっても異なるので誤差もあろうが、だいたいの傾向は見て取れる。東京では震災後だいたい0.1μSv/hということだ。
そもそもこの放射線量の意味が私にはあまりよくわからないので、「今さら恥ずかしくて聞けないけれど他の人たちもそんなにわかっていないだろう」と思い、敢えて原子力の専門家である澤田先生にバスの中で質問するコーナーをやってみた。残念ながら話があまり盛り上がらなかったが、私自身は前より少しわかったような気がした。要するに放射線というのはエネルギーの粒が飛んでくることで、一度に大量の粒が細胞に当たる(=大量の放射線を浴びる)と細胞レベルで組織が破壊されて修復できず死に至るので怖いのだ。ただ、「大量」の基準や「影響がない」と言える線引の数値については結局よくわからなかった。
前後するが、今年の4月1日に避難解除となった浪江町では常磐線の浪江駅が再開し、仙台方面からの列車が1日に11本、小高駅から浪江駅まで来るようになった。その先はまだ未開通だが復興に向けて一歩だけ前へ進んだと言えるだろうか。
地震で傾いたままだった駅前の建物は解体されて更地になっていた。町役場・郵便局・警察などの公共施設も再開し、職員の姿がちらほら見え車が出入りしているが、通りに町の人々は全く見当たらない。
海に近い請戸地区の田んぼだったところには雑草が生い茂る。住宅地だった辺りに昨年は、津波で流された家々の残骸や基礎部分がもう少し残っていた気がするが、今年はほとんどなくなっている。
ぽつんと残る請戸小学校。ここの児童たちが全員無事だったという話がせめてもの救いだが、子どもたちはあれから避難先の町で元気に過ごしているのだろうか。海岸沿いでは防潮堤の工事が粛々と進んでいた。
地元出身の半谷さんの解説を聞きながら。半谷さんの実家の前も通る。
6号線沿いの風景はほとんど変わらない。ひとたび人が住まなくなると、ちょっとやそっとではもう人が住めなくなることを無言で訴えるように無人の家々が建ち並ぶ。
ここに再び人が住めるようになるのはいつだろう?どうなれば住めるようになるのだろう?考えると途方に暮れて気が滅入るなどと言っては部外者の気楽さと叱られそうだ。この春やはり避難解除になった富岡町に来ると、帰還に向けた住宅の建設が進められているようだったが、やはり人の姿はほとんど見かけない。昨年は津波に流されて何もなかった富岡駅の新しい駅舎の工事が進んでいた。日本一美しいと言われた夜の森駅では見事なはずのツツジが除染のために全て伐られて裸になったスロープが痛々しい。やはり、常磐線全線の再開に向けて駅と線路から再建していくということのようだ。
除染作業が進めば進むほど、除染土を詰めたおびただしい数のフレコンバッグが仮置き場に積み上がる。いずれ付近の中間貯蔵施設に輸送予定だそうだが・・
除染の効果なのか、時間の経過なのか、放射線量は下がっているエリアが多い。雑草雑木が生い茂り、人は住んでいない。(続く)
[写真:坂本隆彦さん、川畑日美子さん、井内千穂]