よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

福島の今を訪ねるバスツアー③里山の守り人

福島県内の浜通り国道6号線沿いに富岡町まで南下した後、バスは山間の川内村へ向かった。

川内村は震災後、全村避難を余儀なくされた。山々に囲まれた地形に守られて放射線量は比較的低かったものの、福島第一原発から30km圏内ではあるし、当時は正確な情報がほとんどなかったためでもある。

2012年1月、川内村の遠藤村長は双葉郡で避難していた9自治体の中でいち早く帰村を呼びかけ、村役場も3月には再開。復興への取り組みが積極的に進められてきた。2016年3月までに、人口2,800人のうち約半数が帰村したが、そのうち完全に村内の自宅で生活する人は約600人にとどまる(昨年の取材より)。

元々人口が少ない静かな村ではあるが、それでも沿岸部から来ると、確実に人が生活して辺りを整えている気配がある。その前の週末には、「第2回川内の郷かえるマラソン」が開催され県内外からの多くの参加者で賑わっていたようだ。

昨年、バスツアーをなんとか実現しようと模索する中で出会った秋元さん宅を今年も訪ねることができた。秋元さん夫妻は川内村でも富岡町との境界に近い原発から15kmという地点の里山で民泊を受け入れている。

「人が集まる環境つくる」 秋元さん、川内復興へ活動展開(福島民友ニュース)

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昼食は奥様の素晴らしい手料理をごちそうになった。45人という大勢の食事を用意していただいたことに感謝感激である。食後に秋元さんやお隣(とは言っても1㎞先)で桃源郷を営んでおられる小林組合長など村の方々に周辺の里山を案内していただく。これがこのバスツアーのもう一つの醍醐味でもある。 

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お食事をいただきながら、感想を述べ合う。司会の澤田先生。

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里山のエキスパート秋元さんの解説を聞きながら。

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もっと長く里山を楽しみたかったが、日帰りツアーの日程は慌ただしい。秋元さん宅に戻ってほんの少しだけ「討論会」の時間を設けた。

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地元の方々のお話に耳を傾け、今日の感想を述べ合う。今年も小林組合長のお話に胸を打たれた。

「震災後、三郷に避難していた時には四季の変化が感じられませんでした。時間を持て余しゲートボールの仲間に入れてもらおうとフェンス越しに覗き込んでみましたが、入っていくことはできなくて・・・やはり、自分は川内村の山の中でしか生きていけないと思いました」(小林さん) 

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地元の方々との交流のひととき。

 

昨年、この美しい里山の写真を見た知人から「こんなに綺麗で素敵な山里なのに・・・。悲しいですね。」というコメントをもらったことがあった。この「・・・」に込められた思いは共通するはずなのに、そのような反応をする人との間にはなぜか微妙な溝ができてしまう。

里山はこんなに美しい。でも、放射性物質に汚染されているんだよね」と言うのと、「放射性物質が降り注いだんだよね。でも、里山はこんなに美しい」と言うのとでは方向が全然違うのだ。

道中のバスの中でも放射線量の話にはどこまで行っても謎と不安が残ってしまうことを感じていた。もちろん、人それぞれ感じ方、受け止め方はさまざまだろう。

モヤモヤした思いを抱えていたところへ、今回参加してくれた友人がこんなメッセージをくれた。

「今回一番私がショックを受けたのは、線量計の数値でしか、その存在を知ることができない放射線の存在です。数値が高くなったり低くなったり…その変化を自分の目や耳や五感で把握することができない。手に触れることもできない。ですから、その恐怖が、風評被害につながることは、ごく自然の成り行きのようにも思われます。誰が悪いとか悪くないとかの問題ではなく。わからないから。自分で確かめることができないから。怖いと思えば怖い。川内村の蕨、イノシシ、という文字だけを見ていれば不安や抵抗感があるかもしれない。けれど、そこに、人の生活を見れば、線量の数値の問題ではなくなる。そこに、悲劇を見たように思われました。私も故郷に避難指示が出たとしても、目に見えない存在よりも、故郷に対する思いが勝って、たとえ寿命が短くなったとしても帰ると思います。(年齢もあるけれど)」

彼女がこのような感想を私に伝えてくれたことがとても有り難かった。現地を実際に見た上で率直に語り合えるようになること。それがこのバスツアーをやろうと思う理由だと改めて思った。

原発と共に生きる故郷で、自身も原発に関わってきた人々。放射線量のことも全て承知で、諸々の制約をどうにかしながら覚悟を決めて故郷の里山を守る人々。今年もまたお会いできてよかった。また友人たちを連れてこよう。(終わり)

 

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芝桜をはじめ、花々が咲き乱れる秋元さん宅の庭

 

 [写真:川畑日美子さん、坂本隆彦さん、井内千穂]