よろず編集後記

よろず編集者を目指す井内千穂のブログです。

中学生サミット2017その⑤ 六ヶ所村からの手紙

今年の初め、「中学生サミット2017」に同行し、原発の「核のごみ」の地層処分について最先端の研究施設を見学した上で中学生なりに考えて話し合うというユニークな試みを取材したことは、以前のブログに書いた。

中学生サミット2017その① 瑞浪超深地層研究所見学 - よろず編集後記

中学生サミット2017その② 中学生の疑問にNUMOが答える - よろず編集後記

中学生サミット2017その③ どうする!?核のごみ - よろず編集後記

中学生サミット2017その④ ダイアローグは難しい? - よろず編集後記

 

新年早々まだ冬休み中のイベントだったが、そのうち年度が変わり、早くも夏休み半ばである。当時より1学年進級した彼らはその後元気にしているだろうか。 

その④で、冬休み明けに横浜の中学校を訪ね、サミットに参加した生徒たちにもう一度会って話を聞いたところで一旦完結したのだが、その数日後、六ヶ所村からメールが届いた。はるばる青森から岐阜まで新幹線と在来線を乗り継いで、1年生の男子生徒3人を引率してきた若い先生からだ。サミットに参加した彼らの感想が添付されていて、とても興味深く読んだのを思い出す。

それらを含めてまとめたささやかなレポート「『核のゴミ』にまつわる中学生の対話」が原子力学会誌ATMOΣの5月号に掲載された。

http://www.aesj.net/document/atomos-201705mokuji.pdf

目次にはあるものの、「立ち読み」のサイトで読めるPDFには入っていない後ろの方のページなので、残念ながらウェブで読むことはできない。(ご興味ある方はご一報ください。抜き刷りが何部か手元にあります。)

その後あれやこれやの別件プロジェクトで忙しくなり、ずいぶん時間が経ってしまったが、せっかくの機会だったので、六ヶ所村の生徒たちの感想もここに記しておきたいと思う。

中1T君:(サミットに参加した理由は)お父さんが原子力についての仕事をしていて、興味を持ったから。移動が長かった。他校の人が優しくて話しやすかった。他校の人の考えを詳しく聞くことができたが、自分からは意見を言うことがあまりできなかった。海の近くに埋めるという案はいいと思わなかった。もしかしたら海にすむ生物に影響を与えてしまうかもしれないし、もし崩れたら最悪の状態になると思うから。

中1R君:意外と話し合いなども面白く、他の人ともしっかり話せました。また、自分の意見もしっかり言ったりもしました。原子力関係の人たちの説明もとても分かりやすく、しっかりと頭に入ってきました。輪になってみんなで話し合いをしました。そこでは、大人なしでの意見交換だったので、先輩たちは大変そうでしたが、とても楽しかったです。みんなはこう思っていて、でも大人はこう思っている。子どもと大人で考え方が違ったりするのも面白かったです。僕は、海の下に埋めるのが良いと思いました。広いし、安全で人もいない海の下なら、ロンドン条約にもひっかかりません。けど、もし何かあったら魚たちはどうなるのかと考えると怖いです。

中1I君:サミットに参加して分かったことは、他の地域では考えが全く違うということです。自分は、核のゴミは輸送のリスクが高いから、もう六ヶ所に埋めていいと思っていたけど、神奈川の人は、都会の人が原子力で発電した電気を多く使っているから東京に埋めるべき、と全く意見が異なっていて、そこが面白いと思いました。また意見交換をしたいと思いました。もし次回六ヶ所でやるなら、防寒対策をしっかりとって来てほしい(笑)立場が違うと意見が全く違う、ということが面白かったし、来てよかったと思えた。また、自分から発言できたし、その話題で話が盛り上がったりして、初めて会ったのに、楽しく自然に話せてよかった。来年も機会があったら、今回話した人でも、初めて会う人でも、仲良く楽しく話して、お互いの意見を深めたい。輸送費、輸送時のリスクなどを減らすため、六ヶ所に処分するのが良いと思う。また、土地も意外と広いし、人口が少ないので。

横浜の中学生たちに改めて話を聞いた時にも感じたことだが、六ヶ所村の生徒たちの感想からも、大人が想像する想像以上に、中学生がちゃんと考えていることが伝わってくる。

今から思い出しても、きわめておとなしく、およそ盛り上がったとは言い難いディスカッションだったので、現地での様子だけを見ると「イマドキの中学生は全然ダメだ。自分の意見が言えない。話し合いができない。日本の教育が悪い」みたいな批判もできそうだ。しかし、彼らは輪になって隣同士でボソボソと小さい声ながら「対話」をしていたのである。

大きな声で活発に自己主張し合い、傍目から見ても「議論」が盛り上がることだけが目的ではなく、とても難しい問題を一人ひとりが考え、まとまりきらないながらも自分の考えを伝え、相手の考えを聞き、さらに「どうしたらよいのか?」を一緒に考えることに意義があったのだとすれば、じゅうぶん目的は果たされていたと言えよう。

彼らは「輪になって話すのが面白かった」と言っており、隣り合うぐらいの距離になれば、心理的抵抗感なく自分の意見を言ったり相手の意見に耳を傾けたりすることができることがわかったようだ。そのままもうしばらく対話を続けていれば、大人のシンポジウムやトークイベントにもよくあるような言いっ放しで不完全燃焼のQ&Aコーナーや、この中学生サミットで前年度に試みられた白熱のディベート形式ともまた違った、彼らなりのディスカッションを構築することができたかもしれない。続きをやる機会があるといいなと思った。

その後、5月から6月にかけてNUMOは全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分 ~科学的特性マップの提示に向けて~」を全国で9回開催した。

初回5月14日の東京でのシンポジウムに行ってみたが、壇上のパネリストたちの説明や発表にそれなりに説得力があった一方、会場参加者の偏りと一般市民の関心の低さに暗澹たる思いだった。参加していただけでもそれなりに意識の高い人たちだろうと思うが、何というか、「難しい課題を解決しよう」という雰囲気がまったく感じられないのだ。まあ、大きな会場で大勢の参加者が有意義な意見交換をするのはそもそも無理な話ではあるが。

この日のシンポジウムを報じた日経新聞の記事はこんな感じだった。

www.nikkei.com

そして「今夏にも示す方針」となっていた「科学的特性マップ」が去る7月28日に発表された。

www.enecho.meti.go.jp

「核のごみ」をどうすればよいのか?地層処分がベストの選択肢なのか?いや、フィンランドスウェーデンのような18億年前から動いていない地層なら可能でも、日本のように新しくて地震が頻繁な地層では不可能という意見もある。しかし、地上で管理するほうがもっと危険なのではないか?いや、地層処分は不可能なのであって、そもそも廃棄物をどうにもできない原発を始めるべきではなかった。脱原発しかないという意見。しかし、既に50年分たまってしまった廃棄物をどうするのか?いや、原発再稼働ありきの原子力政策や安易な地層処分には断固反対。地層処分に賛成することは原発に賛成することに等しい?・・・不毛な堂々巡りとごちゃごちゃの議論で賛成・反対が平行線を続けたままの難問である。

さて、これから大人たちはどのような話し合いをしていくのだろうか。他人事ではない。私自身も考えないわけにはいかない。少なくとも「なにがなんでも断固反対」とか「とにかくウチの近所には絶対に埋めるな」とか「それは自分が考えることではなくて国にしっかりやってもらいたいのだが、国のやり方はけしからん」という無責任なだけの言動は慎むよう、中学生のおだやかな話し合いに学びたい。(おわり)